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メイの部屋から出たジャックはすぐに魔法陣でエントランスに向かった。向かう先は先ほど顔を合わせたナギのもとだ。 ナギと会ったとき、どこか変な様子だった。いつものような余裕な表情なんてなくて、自分を見た瞬間少しだけ憎悪に似た何かを感じた。それに何も言わずに去っていくナギに違和感を覚えたのも確かだ。
(どこにいるんだろー)
エントランスに着きナギの姿を探す。 ジャックにとってナギを探す理由は他にもあった。 それはメイのことで、自分が何気なく言ったあの言葉にメイは反応を示さなかった。ナギのことを人一倍気にかけているメイなのに、何も反応を示さないのはおかしいしメイの表情を見れば一発で二人の間に何かあったんだとわかった。 本当ならここは二人の問題だから二人で解決してほしいところだが、メイの寂しそうな顔を見てしまった以上何もしないわけにはいかない。 メイにあんな寂しそうな顔をさせているナギがジャックは許せなかった。
「…あ」
エントランスから噴水広場に出るとナギが噴水の前に立っているのが目に入った。ジャックは眉間にシワを寄せ、ナギのもとへ歩き出す。
「…はあー、頭冷やさねぇとなぁ…」 「ちょうど目の前に冷やせる場所があるよー」 「は?おわっ!?」
ナギは顔から噴水に突っ込みそのまま一回転する。水しぶきが少しだけあがりジャックはフッと鼻で笑った。
「ゴホッ、なっ何すん、だよ、てめぇっ…!ゴホッゴホッ」 「どお?少しは頭冷えたー?」
挑発するように言うジャックに、ナギの眉間にこれでもかというくらいシワを寄せ青筋を浮かべる。
「謝んなら今のうちだぜ…?ジャック」 「ナギこそ、早くメイに謝りなよ。ウジウジしてないでさぁ」 「!この!」
噴水の中からジャックの首元を掴み殴ろうとする。しかしジャックも殴られるとわかっていたのかその前にナギの右腕を掴んだ。 ナギとジャックは睨み合う。
「お前に何がわかんだよ」 「何にもわかんないよー。ナギのことなんか知りたくないしぃ、メイのことなら大歓迎だけどねぇ」 「マジでムカつく奴だな…!」 「どうぞどうぞー、ムカつくのは僕も同じだからねぇ」
そう言うとナギは大きく舌打ちをしてジャックを離し、ジャックに掴まれている腕を振り落とす。そして噴水から出ると、ナギはバンダナをとって絞り出した。
「ねぇ」 「………」 「メイと何があったか知らないけどさぁ」 「………」 「寂しい顔させないんでほしいんだよねー」 「……俺がいなくたって寂しくなんかねぇだろ。むしろあいつは誰かがいなくても寂しいって感じねぇんじゃねぇか」
淡々と言って述べるナギをジャックは鋭い目付きで見つめる。ナギはジャックを見ないまま、あーあ、と呟いた。
「制服ビッショビショ…めんどくせぇが部屋に戻るかなー」 「まだ僕の話終わってないんだけど」 「あぁ、なに?メイのことだっけ?俺はもういいわ、あいつのことなんて」 「は…?」 「なんかもうあいつに着いていけねぇし……守れる自信も、ねぇ」
最後のほうは本当に小さな声でポツリと呟く。答えが投げやりなナギにジャックは冷静に口を開く。
「大切だったんじゃなかったの?」 「あいつにとって俺はただの幼馴染みだしな」 「メイがそう言ったわけ?」 「メイは……」
ふとナギの頭の中で蘇る。
『あんとき、俺に何かあったらどうしてた?』 『………え?…何もなかったじゃん』 『何もなかったけどよ、もし、何かあったら』 『そんなん考えたくないよ。…そんなこと言わないで』 『そうだよな、わりぃ』
そう言っていたメイの顔は嘘をついているような顔ではなかった。幼馴染みだからわかるのではなく、幼馴染みではなくともわかっただろう。あのときの苦しそうで悲しそうな表情をするメイが、愛しくてたまらなかったのを思い出す。
「メイが大切なくせに、何が守れないからだよ。そんなのただ逃げてるだけじゃん」 「………」 「メイの傍に僕や0組がいるときはメイは安全だけどさぁ……僕や0組がいなかったら誰がメイを守るのさ」 「………」
ナギは拳を握る。言い様のない怒りがナギの中をグルグルと支配するのだった。
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