137.5




 ジャックは教室でエイボン奪回作戦の報告書を急いで書いていた。この報告書が終わるまでメイさんには会わせません、とクイーンから言われてしまったからだ。
 こんなに必死になるジャックをエイトは物珍しそうに見つめ、一方でケイトは頑張れーと笑いながら応援する。


「ふふ〜ん」
「?あれ、シンク?どこ行ってたのよ」


 教室の入り口から上機嫌のシンクが入ってくる。ケイトは上機嫌のシンクに首を傾げながらも問い掛ける。
 シンクはケイトに気付くと嬉しそうな顔をして、ケイトの目の前にある本を突き出した。


「な、なにそれ」
「この本にエイボンの地図が書いてあるんだって〜!メイっちに教えてもらったんだぁ」
(ガタンッ)


 シンクがそう言うと同時に大きな物音がしてケイトもシンクも音がしたほうへと視線を移す。そこにはジャックが椅子から立ち上がり、シンクのほうを見つめていた。いや、シンクが持っている本を見つめているというほうが正しいだろう。


「急にどうしたんだ、ジャック」


 急に立ち上がったジャックにエイトは目を丸くさせて見つめる。ジャックはシンクが持っている本をしばらく見つめたあと、何事もなかったかのように静かに座った。
 そんなジャックにケイトもエイトも顔を合わせて首を傾げる。シンクはニヤっと笑いジャックの席へと向かった。


「ジャックン〜」
「…なぁにー?」
「報告書、早く終わせないとねぇ〜」


 悪戯っ子のように笑うシンクにジャックは顔を引きつらせたが、すぐに笑みを浮かべてもうすぐ終わるもんねぇー、と言い返し物凄い速さで筆を走らせる。
 奇妙な二人にケイトは全く、と呟きエイトは仕方ない奴だな、と呆れ顔をするのだった。



 シンクに邪魔されながらもやっとのことで報告書を書き終えたジャックは、モーグリに報告書を渡し慌てて教室を飛び出した。目指すはメイがいるクリスタリウムだ。
 勢いよく教室を出たジャックは0組の向かいにあるクリスタリウムへと走る。クリスタリウムの扉を開け、急ぎ足でメイを探すけれどメイの姿は全く見当たらない。
 もしかしたらもう部屋に戻ってるかも。そう思ったジャックはクリスタリウムから出て魔法陣へ向かう。


「…あ」
「ん?…お前か」


 クリスタリウムから出て魔法陣に向かっているとちょうど魔法陣からナギが現れた。ジャックはまた何か言われるんじゃないかとほんの少し身構えたが、ナギはジャックを無視して噴水広場へ続く扉へと歩いていく。
 あのナギから何も言われないことを不思議に思ったジャックは魔法陣の前で立ち止まり、ナギの背中を見つめるのだった。