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──岩の月(3月)1日


 この日レコンキスタ作戦が実行された。この作戦で0組に出撃命令。0組にとっての初めての制圧戦となる。
 候補生たちも出撃の準備をしている中、私は軍令部長に呼ばれ司令室へ来ていた。


「なんでしょうか」
「すまないな。君にはまた0組の監視を頼みたいんだが」
「…私以外にも監視する役が2人、いますよね?その2人だけじゃいけないんですか」
「念には念を、だ。君には期待している、あの2人以上に」


 期待している、だなんて。そんな言葉で私が釣れるとでも思っているのか。ただドクター・アレシアを妬んでいるだけで、ここまで巻き込むのか、軍令部長とやらは。
 結局、権力を手にしたいだけの大人。ほとほと呆れてしまう。


「…わかりました」
「頼むよ」


 軍令部長に一礼し、私は司令室を後にする。めんどくさい。この一言に尽きる。
 司令室を出ると、ドクター・アレシアが前方から歩いてきた。珍しい、そう思いながらも私は歩きながら一礼をする。ドクター・アレシアは0組の12人以外には相当冷たいと噂されている。その噂が本当なら、私のことも無視するだろう。


──コツ、コツ、コツ…


 何も返されぬまますれ違い、やっぱりか、と思いながら私は再び歩き出した。あの後、ドクター・アレシアが私の後ろ姿を見ていたことも知らずに。



 候補生の実戦投入で、マクタイを解放した朱雀軍は、解放したばかりのマクタイを拠点として、ルブルム地方奪回の大規模攻勢を開始。
 0組は、遊撃部隊として作戦に参加。単独で特殊任務を遂行することになり、私もまた特殊任務として、単独で0組の監視任務を遂行する。
 朱雀は先に第一陣地を落とし、次にアクヴィを制圧。そして最終的にコルシを制圧すれば今回の作戦は成功と言える。


 私は候補生の服装から朱雀兵の服装に着替え、援護しているように見せかけ、0組を監視をする。今回は多数の人が援護してくれるから気配には気付かれないだろう。


 作戦が開始され朱雀軍は歩を進める。0組の支援のお陰で第一陣地を落とし、次にアクヴィを攻める。途中皇国軍の砲台の襲撃に遭うが、0組が難なくそれを破壊する。
 そしてアクヴィのエナジーウォールが解け、町の中へ。私も0組を見失わないよう援護しながら着いていく。

 アクヴィに入ると、これまた呆気なく皇国兵を倒していく。
 ここの任務はヘリオット少佐が逃げ出す前に殺さなければならない。私は皇国兵を倒しながら横目で0組を監視していると、不意にジャックと目が合った。ゲッと思っていると、皇国兵が私の背後に立っているのがわかった。
 私はすかさず小刀を出し、皇国兵にカウンターしようとすると、皇国兵はドサッと地面に倒れた。


「大丈夫か」


 どうやらカードの少年が助けてくれたらしい。私は小刀をしまい、ありがとう、と礼を言う。


「少佐の死亡を確認、アレも手に入れたよー」


 赤髪の子が言う。アレ、というのはファントマのことだろう。
 私はカードの少年に向き直り口を開いた。


「ここはもう大丈夫です、後は私たちに任せて次の任務へ行ってください」
「ああ、わかった」


 カードの少年は頷くと、皆を連れてアクヴィを出た。
 ジャックと目が合ったのは間違いない。アレは、ジャックがわざと私に目を合わせた。多分、朱雀兵の中に私がいると勘づいたのだろう。今のところ気付いているのはジャックのみ。ジャックのことだ、皆には言わないだろう…多分。いや言ったところで任務を中断するわけにはいかないから続けるけど。

 私は他の朱雀軍の人に気付かれないようにアクヴィを出る。0組はちょうど第二陣地を奪っている最中だった。今のうちにコルシへ先に潜入しておこう。
 私は朱雀軍に混じって、コルシへと出撃した。



*     *     *



「残すはコルシだけだな」
「そうですね、気を抜かないで行きましょう」


 0組は第二陣地からコルシへと走る。コルシを見ると、もうエナジーウォールが解けかかっていた。この分だと着いた頃にはコルシのエナジーウォールは解けているはずだ。


「…なんか凄い視線を感じるんだが」
「?そうですか?私は感じませんが…気のせいではないでしょうか」
「そうか…」


 首を捻るエースに、ジャックはエイトと喋りながら物凄い笑顔でエースを見ていたとか(シンク談)



*     *     *



 やっとコルシのエナジーウォールが解け、私は町の中へ潜入する。0組が来るまで皇国兵に見つからないように建物の中に身を隠した。


「朱の魔人が来たぞー!」
「!」


 コルシの入り口を建物の中から覗き込むと、朱のマントを纏った0組が現れた。
 私は建物の中から静かに見守る。ジャックは何かを探しているかのようにキョロキョロと顔を忙しなく動かしていた。それを眼鏡の女の子に咎められ肩を落とすジャックに私は小さく笑った。



 コルシに入り、襲いかかってくる皇国兵を次々と倒していく0組。そしてあっという間に奥にいるハミルトン中尉をも倒してしまった。さすが0組といったところか。

 私はコルシから出ていく0組を見送ると建物から出る。朱雀軍が来る前にここを出なければ。


「お疲れさん」
「…なんでナギがいるの?」
「なんでってメイを迎えに来たんだよ」
「え?これ、一応極秘任務なんだけど」
「ああ、軍令部長とお前が話してるの聞いてたぜ」


 私を見てニヤリと笑うナギに、やっぱりこいつは敵に回したくないな、と思った。それから私はナギと一緒にコルシを出て魔導院へ向かった。

 COMMから皇国軍はルブルム地方から身を引いたという報せを受け、拳を高々にあげる朱雀軍。この戦争は、朱雀の勝利として終わる。アクヴィとコルシは暫くは瓦礫の山を片付ける作業で大変だろうが、ルブルム地方を取り返せたのは朱雀にとって大きな一歩となったのだった。