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 クリスタリウムに着きモーグリと別れて、私は一番奥にある本棚へと歩を進める。一番奥に着くと、分厚い本がズラリと並んでいた。
 この中から秘匿大軍神についての本を探さなくちゃいけないのかと思ったらゲンナリしたが、それでも調べたかったので気合いを入れ入れ直して本棚へ手を伸ばした。

 数十冊の本を抱えて、机へと向かう。机に本を置いて椅子に座り一冊の本を手にとった。
 わざわざ一頁一頁見るのは面倒なので、パラパラと流し読みしながら秘匿大軍神らしき記事を見つけることにした。


「………」


 埃の臭いと紙の臭いが鼻をくすぐる。一冊目の本を読みきると私はふぅと一息ついた。


「……こりゃ長くなりそうだ」


 頬杖をつき一番奥の本棚をジト目で見つめ、そして背筋を伸ばして二冊目へと手を伸ばした。





「………はぁあー…」


 本を閉じて席を立つ。これで72冊目だ。
 あと何冊見れば見つかるんだろう。そんなことを思いながら、机に置いてある数十冊を抱え本棚へと戻していく。今日中には見つかりそうにないな。


「……あ」


 ふと歴史はどうだろう、と思い付く。
 秘匿大軍神と名付けられているからには以前もそれを使ったことがあるということで、歴史を調べれば少しは秘匿大軍神についての記事が載っているかもしれない。
 手に持っていたすべての本を本棚に戻すと、歴史文献の本棚に足を向けた。


「あれ〜?メイっち?」
「!し、シンク…?」
「やほ〜」


 呼ばれた方向へ顔を向ければそこにはニコニコと笑みを浮かべて私に手を振っているシンクがいた。
 シンクは私の前まで歩き、両手を後ろに組んで口を開く。


「体はもう大丈夫〜?」
「か、からだ?」
「この前の作戦のとき、結構体力消耗してたから〜」
「あ…うん、もう大丈夫だよ」


 そう言うとシンクはよかったぁ〜と目を細めて微笑んだ。こんな私を心配してくれたのかと思うと、嬉しいと感じる半面申し訳なく思った。
 心配かけてごめんね、と言うとシンクは本当に心配したんだよ〜、と返されさらに恐縮してしまう。


「メイっちは頑張り屋さんだから、わたし心配なんだよねぇ〜」
「そうかな…でも私からしたらシンクのが心配だよ」
「え〜?わたしなら大丈夫だよ〜。でもメイっちに心配されるのは嬉しいなぁ〜」


 私に心配されて嬉しいと言われるのは何だか不思議だ。ヘラヘラ笑うシンクに私は苦笑を浮かべる。
 そういえばなんでシンクはここにいるんだろう。シンクがここに来ているのを見たのは初めてだ。
 そう思った私はそれよりも、と話題を変える。


「シンクがクリスタリウムにいるの初めて見たよ。今日はどうしたの?」
「あ、そうそう〜!この前の作戦の報告書を書きたいんだけど、エイボン地方の地図探してて〜。クリスタリウムって滅多に来ないからどこにあるかわからなくって」


 あはは〜と笑うシンクに、私は肩を落とした。そういえば前にもこんなことあったような。
 地図ならこっちだよ、とシンクを案内するとシンクは嬉しそうに私の後ろを着いてきた。何でそんなに嬉しそうなんだろう。
 不思議に思いながら地図のある本棚へ辿り着く。私はエイボン地方の地図が載っているだろう本を取り、シンクに差し出した。


「はい、この中にエイボン地方の地図書いてあると思うよ」
「メイっちありがとう〜!」


 本を受け取るとシンクはキラキラと顔を輝かせて、そしていきなりギュウと抱き締めてきた。
 なんだ突然!と呆気にとられていると、シンクはメイっちがいて本当によかったぁ、と呟いたのが聞こえた。


「えっ」
「ふふ〜、本当にありがとう〜!じゃあまた今度お話ししようねぇ」
「あ、うん…」


 終始ニコニコとしたままシンクは軽い足取りでクリスタリウムから出ていく。
 そんな大層なことしてないのにと思いながらも、頬は緩んでちょっとにやけてしまうのだった。