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 あのブリーフィングから早くも1日が過ぎようとしていた。布団の中でボーッと、ブリーフィングのときのナギの姿が頭から離れない。
 鳥の囀ずりが聞こえると私はゆっくり起き上がる。


「…考えてても仕方ない、か」


 私が何か言えば言うほどナギは遠くに行くような気がした。ただ何も言わないことによって溝がさらに深まるかもしれない。でも今はまだ、そっとしておいたほうがいい、そう思った私は立ち上がり伸びをして両頬を叩いた。


「しっかりしろ、自分!」


 自分にそう言い聞かせ、クリスタリウムに行く支度をし始めた。

 身支度を終えた私は部屋を出てクリスタリウムに向かう。朝早いだけあってか人通りが少ない。
 なんだかこの状況にデジャヴを感じる。


「メイ、起きるの早いクポ」
「!モーグリ…」


 モーグリの可愛らしい声に呼ばれ振り向けば、昨日会ったばかりのモーグリが片手をあげてふわふわと近づいてきた。
 その姿に胸がキュンと鳴る。なんだこの可愛らしい生き物。


「おはよう、モーグリ」
「おはよークポ。どこに行くんだクポ?」
「クリスタリウムだよ」
「じゃあ一緒に行こうクポー」


 どうやらモーグリもクリスタリウムに行く途中らしい。モーグリの誘いを断る理由がないので、一緒に行こうかと言いモーグリと一緒に歩く。
 モーグリと一緒にいること自体初体験な私は、何を話せばいいか頭を捻る。だいたいブリーフィングのときくらいしか話さないし、COMMでもたまにしか話さない。
 任務の話が大半で、世間話とかしたことがなかった。


「大丈夫クポ?」
「え?な、何が?」
「責任を押し付けられたことクポー」
「…あぁ」


 私がシド暗殺容疑として疑われて、その責任を押し付けられているのをモーグリは心配してくれているようだった。
 モーグリは私の顔色を伺うように覗き込んでくる。 そんなモーグリが可愛くて笑ってしまった。


「なっ、何笑ってるクポ!」
「はは、何にも…私は大丈夫、ありがとう、モーグリ」
「…そうクポ?あんまり無理すんなクポー」


 小さな手で背中をポンポン叩くモーグリに、抱き締めたい衝動に駆られた私はモーグリ向かって両手を伸ばした。


「そうは行くかクポー!」
「あ!」


 抱き締めようとした瞬間、モーグリはスルリと私の腕を抜けて俊足の速さで私から距離をとった。
 別に抱き締めたっていいじゃん、と文句を呟くとモーグリはプイッとそっぽを向いて抱き締められるのキライクポ、と吐き捨てるのだった。