134
そのプリントにはこう書かれていた。
"東西同時侵攻に備え、朱雀全戦力が動員。 西の皇国、東の蒼龍による同時侵攻作戦に備え朱雀では全軍をもって東西に展開させる両面作戦を計画。 候補生に加え、訓練生にもこの作戦に参加してもらう。"
「9組はそれぞれ別れて敵の動向を探ってもらうクポ」 「西と東に別れるのか」 「そうクポ」
誰かが呟いたことに反応を示すモーグリは、二枚目を見るクポ、と促す。二枚目を捲ると、作戦当日の朱雀の戦略が簡単に書かれていた。
"まず、皇国側のビッグブリッジには朱雀正規軍を中心とした戦力を展開。本陣にて朱雀ルシ・セツナ卿が秘匿大軍神を召喚し、皇国本隊の撃滅を狙う。"
「…秘匿大軍神?」
秘匿大軍神なんて聞いたことがない。それは私以外の候補生も同じようで、秘匿大軍神って?とモーグリに問い掛けていた。
「秘匿大軍神は魔法局が隠してきた軍神のことクポ。普通の人には秘匿大軍神を召喚することは無理クポ」 「…ルシのような力がないと召喚できないということか」 「そうクポ。朱雀が勝利するためにはこの秘匿大軍神にかかっているんだクポ」
落ち着いた様子で淡々と喋るモーグリに、候補生たちは案外落ち着いた様子で静かに耳を傾ける。 秘匿大軍神、少し調べてみる必要があるかもしれない。ブリーフィングが終わったらクリスタリウムに足を運んでみよう。 そう思いながら、先ほどの続きに目を通す。
"また、蒼龍側のシュデッカ海峡には候補生中心に部隊を展開し、朱雀ルシ・シュユ卿を出陣させる。"
「ルシが二人も戦うのか」 「それほど朱雀が窮地に追い込まれてるってことか…」
ボソボソと聞こえてくる声に、私は食い入るようにプリントを見つめる。 二人のルシが動く。ということは今までにない、本当に大変で辛い戦いになるに違いない。きっと沢山の人が死ぬだろう。 もしかしたら、自分も。
そこまで考えて私は首を横に振った。こんなときに何を考えているんだ。
「西と東に別れる人選は諜報部で行うクポ。連絡は作戦前日に伝えるクポ!…これでブリーフィングは終わるクポ!解散していいクポー」
西と東、私はどちらに配属されるのだろう。そう考えていると隣からガタッと椅子の音がして、自然とそちらに顔を向ける。 顔を向けると、ナギがプリントを持って立ち上がり教室から出ていこうとしていた。 私は話し掛けることもできずに、一人教室に取り残される。
いつもなら一緒に帰っていた。 いつもならここで一緒に作戦について話し合っていた。 そう、いつもなら──。
そのいつもならのことがなくなってしまうと思ったら、心に穴がポッカリと空いたみたいに寂しく感じるのだった。
|