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 エイボン奪回作戦は無事成功に終わったが、本当の戦いはこれから始まろうとしていた。



 9組の教室は魔導院の離れの特別棟にあり、そこで珍しくブリーフィングが行われようとしていた。いつもならナギが勝手に私の部屋へ迎えに来ていたが、今日はそれがなかった。なんとなく寂しさを感じながら、魔導院の離れにある特別棟に向かう。
 魔導院内は未だ慌ただしく、今日は何度も朱雀兵と擦れ違った。

 特別棟が近付くにつれて、擦れ違う人が少なくなっていく。特別棟に着き大きな扉を開けると既に数十人の候補生が席に着いていた。
 教室に入るが誰一人、話し掛けてくることはない。9組は汚れ仕事によって感覚が麻痺している人が多く、自ら人と関わろうとする候補生はほとんどいないからだ。そう考えると、私は人と関わりすぎているような気がする…気がする、じゃなくて実際に関わりすぎているのだが。

 そんなことを考えながら、自分も誰にも声をかけずに座ろうとした。


(…?)


 席に座ろうとしたとき、誰かに見られているような気がして顔をあげる。視線を感じた場所へ顔を向けると、男子候補生が無表情で私を見ていた。


「……なに?」


 耐えきれず、声をかけるとその男子候補生はふん、と鼻を鳴らし口を開いた。


「よくのこのこと帰ってこれたな」
「………」
「誰のせいでこうなったと思ってんだよ」


 吐き捨てるように言う男子候補生を止めようとする人はいない。それを擁護するかのように私を睨み付ける人もいれば、無関係だと言わんばかりに無視をする人もいた。

 何も言い返さない私に、その男子候補生は続ける。


「お前や0組がいなければ、こんなことにはならなかったのに」


 その言葉に、心がギュウっと締め付けられる。
 こう捉える人はこの男子候補生以外にもきっと沢山いるだろう。信じてくれる人、そうでない人がいる、それでいいとセブンは言っていたが、やはりこう正面から言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
 反論しない私に男子候補生は苛ついた口調で話し続ける。


「…少しは何か言ったらどうなんだよ」
「………」
「はっ、図星だから何も言えないのか」
「………」
「上は何を考えてんだか…お前みたいな疫病神を野放しにしておくなんてな」


 グッと拳をつくり、歯を食い縛る。
 そんなこと私に言われても仕方ないのに、少なくとも男子候補生は私の処分に納得していない様子で、だから私に吐き出したいんだと思う。何も言えず、ただただ机を見つめるしかなった。そんな私に男子候補生はポツリと呟く。


「…お前なんか、早くし」
「お喋りはここまで」


 聞き慣れた声がして顔を向ければ、視界が大きな背中でいっぱいになるのだった。