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 土の月(7月)23日

 魔導院の東に位置するエイボン地方は開戦以来、皇国軍の占領下にあった。
 軍令部は、皇国の同盟国となった蒼龍軍が皇国軍と合流することを危惧、蒼龍軍が動き出す前に皇国軍を撃破し、蒼龍国境まで軍を進めて、国境を固める[サンスーシ]作戦を計画した。
 しかし、大半の部隊を皇国国境に展開させている朱雀軍には戦力の余裕がなく、やむを得ず軍令部は、候補生部隊を全面的に投入することで戦力不足を解消することを決定、作戦を開始した。
 正規軍の数が少ないために兵力的に不利な朱雀軍であったが、候補生部隊の活躍もあり、[エイボン]の攻略に成功、作戦は朱雀軍の勝利に終わった。
 この勝利により、朱雀軍は国土の大半を解放し、残る皇国軍の占領地は、メロエ地方のみとなった。





 エイボン奪回作戦は朱雀の勝利と終わったものの、相変わらず魔導院はピリピリとしていた。作戦が終わったあと、ナギがチョコボを連れて私の前に現れ、すぐ魔導院へと直帰するよう言われてしまった。それにジャックは不満をもらしていたが、何とか宥めナギと一緒に魔導院へと帰る。


「………」
「………」


 私とナギの間は沈黙状態で、ニンジャチョコボにどうしたの、と言いたげな目を向けられてしまい、何でもない、と心配かけないように背中を撫でる。チョコボの背中を撫でながら、あのときのナギの顔が脳裏をよぎった。
 エンラを助けに行くため、ナギを振り切って行ってしまったことに後悔はしていない。けど、ナギに対してどうしても罪悪感が拭えなかった。


「ほんと、お前って無茶ばっかするよな」
「!え?」
「命がいくつあっても足りねぇくらい、無茶ばっかしやがって」
「ご、ごめん…?」
「責めてるわけじゃねぇから謝んな」


 ナギの横顔を盗み見ると、なんとも言えない神妙な面持ちをしていてどうしてか左胸の奥がギュッと締め付けられた。そんな表情にさせてるのは間違いなく他でもない自分で、申し訳ない気持ちがドッと溢れ出てくる。


「…ごめんなさい」
「だから、何謝ってんだよ」
「……本当に、ごめん」


 リズムよく走るチョコボの背中を見つめる。
 ただの自己満足かもしれない。それでも謝らなきゃ、と思った。
 私の言葉にナギは黙っていたが、しばらくして鼻で笑い出した。


「……謝るくらいなら、そういうことしてほしくないって、メイならわかるだろ」
「!」
「それにメイがしたいことを、俺が止める権利なんてねぇからさ」


 その言葉にハッとしてナギへ視線を移すと、ナギは苦しそうな表情を浮かべていた。そんなナギになんと声をかけていいかわからなくて、結局魔導院に着いても一言も話すことなくそのまま別れるのだった。