130




 自分の目の前にはここにいるはずのないジャックで、驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。ジャックは決して得意ではない魔法を使い、飛行型魔導アーマーを攻撃する。
 なんでここに?0組は今トグアの町にいるはずじゃなかった?


「おい、大丈夫か?」
「!え、エンラ」
「…ナギが、自分は要塞に行くって。お前は俺といるように言われたよ」
「………」


 エンラにそう言われると、フッと肩の力が抜け倒れそうになる。それをエンラが支えてくれた。
 エンラに小さくお礼を言いジャックのほうを見ると、魔法だけでしか攻撃できないからか少し苦戦しているように見えた。守られてばかりいられない、と思った私は足に力を入れ立ち上がろうとするがエンラに止められてしまった。


「な、にすん」
「お前のお陰で幾分か休めたぜ、サンキューな。後は俺とあいつで何とかするから、しばらくここで休め」
「は…?ちょ、」


 そう言うな否や、エンラはジャックの方へと走って行ってしまった。私も追い掛けようとするが、足が言うことを聞かずうまく立ち上がれない。
 どうしてこういうときに限って立ち上がれないのだろう。
 私は歯を食い縛り、うまく立ち上がれない足を何度も強く叩く。


(なんで、立ち上がれないの、なんで…なんで…!)


 エンラやナギ、ジャックが懸命に戦っているなか、自分は何をしているんだと情けなくて、そして悔しかった。
 足を叩きながら、目頭が熱くなる。


「メイさん!」
「!く、クイーンさん…?」
「大丈夫ですか?……相当、魔力を使ったようですね」


 クイーンさんは私を真っ直ぐ見て、額に手をあてる。額から暖かいオーラが流れてくるのがわかった。
 涙を見せまいと袖で目元をグイッと拭きクイーンさんを見上げると、安心させるかのように柔らかい笑みを浮かべた。それに安堵の息を吐くが、クイーンさんの顔を見てハッと我に返る。


「わっ…私はいいから、ジャックたちを」
「それなら安心してください」
「え…」


 そう言うとクイーンさんは視線を要塞のほうへ移すので、私もつられて要塞に視線を移す。


「あっ…!」


 視線を移した先にはジャックとクイーンさん以外の0組の皆が、飛行型魔導アーマーに向かって攻撃をしていた。ジャックとエンラの姿も目視で確認できて、心の底から安堵する。
 深く溜め息をつくと、クイーンさんが突然私の手を上から重ねてきてビクッと体が跳ねてしまった。


「…あなたは無理をしすぎです」
「………」
「少しは自分のことも大切にしなさい」
「……はい」


 クイーンさんにそう言われ、どっちが年上かわからないな、と苦笑を溢す。そのあと、ジャックとエンラが慌てて私に駆け寄ってきてエンラからは何度も感謝の言葉を聞き、ジャックからは何度も身体は大丈夫かと聞かれていた。そんな二人にクイーンさんは一喝する。
 三人のやり取りを呆然と見ていると、要塞のほうから大きな歓声が聞こえてきた。それと同時に私のCOMMに通信が入った。
何か起こったのかと慌ててCOMMに出る。


「はい!?」
『よぉ…元気そうで安心した』
「!な、ナギ…」
『…要塞は今しがた、0組が落とした。奪回作戦、成功したぜ』
「そっ…か…よかった…」


 ナギの声と作戦の成功の言葉に、全身の力が抜けるのだった。