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 翌日、報告書を司令部に提出した私はナギと共にマクタイへと向かった。

 朱雀は次にレコンキスタ作戦を開始する。
 レコンキスタ作戦とは所謂制圧戦であり、マクタイを拠点として『アクヴィ』の町と『コルシ』の町を皇国から奪還するためだ。

 私とナギは諜報部から任務を言い渡されていた。マクタイの中にどうやら皇国から送られた密偵がいるらしい。その人物はもう特定されてはいるが、混乱を招きかねないので誰にも見られずに暗殺してほしいとのこと。
 候補生である身ならば、相手は舐めてかかってくるのでそちらのほうが殺りやすい。マグレ組とも言われている9組なら相手も油断するだろう。

 密偵の人数は2人。そのために私とナギがマクタイへと送り込まれた。まぁ確かにマグレ組と呼ばれている9組が実は、クリムゾンの任務をこなしているだなんて知る人は極少数。敵を油断させるにはもってこいな人材だ。

 マクタイに着いた私たちは二手に分かれ、密偵と言われている人物を探す。今日中までに見つけ出し殺さないと、皇国軍が先にマクタイへと侵攻してきてしまう可能性があるかもしれないからだ。そのため慎重かつ速やかに、その密偵と言われている人物を探す。

 私は一人一人丁寧に見ていく。するとある一人の男に目が入った。
 普通に朱雀軍の人と瓦礫を片付けているが、目が泳いでいる。暫く観察していると、やはり朱雀軍の人たちの行動を目で追っていた。
 密偵の仕草を諜報部から聞いた内容を思い出す。右手に切り傷があり、それを隠すかのように庇っている、と。そのような仕草をしている人はこのマクタイの中で一人しか見つからなかった。ということは、あの男が皇国から送り込まれた密偵だということ。

 私は素早くその男の元にいき、少しよろしいですか?と声をかけた。いきなり候補生に声をかけられたから吃驚したのか、少し後退るが私のマントの色を見て安堵の息をはいた。


「何か用か?」
「あちらで少し手伝ってほしいことがあるので着いてきてくれませんか?」
「ああ」


 わかった、と意外にすんなり着いてくるその人に私は懐から小刀を忍ばせる。人通りがない市街に着くと私は振り返った。


「…?どこを手伝えばいいんだ?」
「単刀直入に言います。あなたは皇国から送り込まれた密偵ですね?」
「!」


 そう言うと相手は目を開かせ少し後ずさった。しかし、私が女で9組の候補生だからかいきなりナイフを取りだし襲いかかってきた。
 私はそれをかわし、サンダーを唱え男のナイフを弾く。もちろん右手にはしっかり切り傷が刻まれていた。
 男はナイフを弾かれてもなお私に襲いかかってくるので、私は隙をついて小刀を相手の心臓目掛けて刺した。うっ、という呻き声と共に全体重が私を襲う。重いな、そう思いながらも小刀を握っていない手をかざし、相手のファントマを抜いた。
 ファントマとは言わば生き物の魂と言われていて、諜報部の一部の人間と局員の一部の人間、そして0組くらいしか知らないだろう。これは魔法の錬成材料として用いられる。私もその一部の人間であり、ファントマについて勉強もさせられた。


「……?」


──ピピッ


 COMMが反応する。多分ナギからの無線だろう。私は小刀をしまい、血を払う。小刀を握っていたほうの腕が血で染まっていて鉄臭い。早く帰って洗わなきゃな、と思いながらCOMMに耳を傾ける。


「…ナギ?」
『おう、終わったみたいだな。こっちも無事に任務完了、入り口で待ってるぜ』
「わかった」


 どうやらナギも終わったらしい。私は人目に触れないようにナギの待っている入り口へ急いだ。

 入り口にはナギが待っていて私の腕の血を見るなり、血相を変えて歩み寄ってきた。


「大丈夫か!?その腕…」
「え、ああ、大丈夫。これ相手の血。怪我してないよ」
「そ、そうか。ならよかったぜ…」


 ホッと安堵の息をもらすナギにありがとう、とお礼を言う。
 ナギは少し過保護だと思う。候補生になってから単独任務で帰ってくると、いつも怪我はないか、と聞いてきた。私はナギが思ってるほど弱くないよ、と言うがそれでも毎回聞いてくる。なんだかうるさい兄がいるみたいだ。


「ナギは過保護だよね」
「はぁ…あのなぁ、俺はお前のことが心配なわけで」
「でも死んだら記憶なくなるじゃん」
「ばーか。…お前が俺を忘れたくないように、俺もお前を忘れたくねぇんだよ」


 言わせんな恥ずかしい、と言われ頭を軽く叩かれる。ナギは私の前を数歩先に歩く。私はにやける顔を必死にこらえ、叩かれたところを擦りながらナギの隣まで走るのだった。