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 ナギはエンラ隊全体にウォールを張り、飛行型魔導アーマーに向かって魔法を放つ。一方、私はエンラや他の候補生の傷を癒していく。傷を癒している最中、何回もお礼を言われどこかこそばゆく感じた。


「なぁ、俺、魔力、きれそうだ」
「は、あと少しだって言っただろ…頑張れよ…!」
「ナギもメイも、早く逃げろ…!共倒れしたくねぇ、し」
「な、何言ってんの!あと、少しだから!」


 なかなか後退しない魔導アーマーの攻撃に耐え兼ねてか、エンラが突然そう呟く。それに渇を入れながら、ナギも私も必死に魔導アーマーに対抗するがとうとうエンラは膝をついてしまった。


「エンラ!」
「はぁ…はぁ、キツいな、やっぱ」
「おい、エンラ!」
「ナギ、俺ならいいから…メイを連れて逃げろ」


 汗がとめどなく流れエンラは苦しそうに顔を歪める。そんなエンラをナギは悔しそうな顔をして、拳を作った。
 私はエンラに回復魔法を唱えようとするが、エンラに片手を掴まれ止められてしまう。


「へっ…文句、言いたかったんだけどな」
「え、エンラ、腕、放し」
「早く行けって、ナギ!」


 そう叫ぶエンラに私は固まってしまった。ナギは私の腕を掴み、要塞とは反対方向へ進もうとする。それを私は必死に抵抗するが、男女の力の差でエンラからどんどん離れて行ってしまう。


「ナギ、ナギ!エンラを、助けなきゃ!」
「………」
「ナギ!」


 ナギの名前を呼んでも返事もなにも言わない。そんなナギに、私は歯を食い縛りサンダーの呪文を唱えた。


「!いっ…!」
「ナギごめん…!」


 ナギから腕が解かれた瞬間、私はエンラのところに走っていく。
 エンラに死んでほしくない、そう思った。あんなにレムさんのことを想っているのに、伝えられないまま死んでしまうなんて私が許さない。私が死んででも大事な人には生きていてほしい。
 だから、助ける。


「…はぁ、…レムちゃんに…伝えたかったなぁ」
「…っ伝えてくれなきゃ困る!」
「!なっ、メイ!?」


 エンラの前に立ちはだかり、もう一度ウォールを張る。魔導アーマーも動きが鈍くなって来ているのを見逃さず、魔法を唱え攻撃をする。エンラは驚いた表情をして呆然としていた。


「お前、なんで戻って」
「生きて欲しいから!」
「は…?」
「生きて、レムさんに伝えて欲しいから!伝えないまま死ぬなんて私が許さん!わかった?!」
「お、おう…?」


 よくわからない、と言ったようなエンラの気の抜けた返事に私はわかってんのか、と言いたくなった。
 飛行型魔導アーマーは止まることなく、攻撃を続けてくる。それに伴い、私も自分の魔力が段々無くなっていることに焦りを感じていた。


「……メイ、もういいから」
「………」
「お前にはナギが…!」
「うっさい、黙ってろ!」


 これ以上大切な人を失うなんて嫌だ。そんなこと、考えたくもない。
 額から流れる汗に、何故か目頭が熱くなってきた。
 どうして、この世に戦争なんてものがあるのだろう。なんで大切な人なのに、死んだら記憶が無くなってしまうのだろう。
 私は顔を俯かせ、力なくポツリと呟く。


「もう…これ以上大切なモノを失いたくないよ…!」
「失わせない、僕が守るから!」
「!」


 その声に顔をあげると、朱のマントと見慣れた後ろ姿に私は目を見張るのだった。