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リィドさんと別れてジャックのところへ歩み寄る。ジャックと目が合うとリィドさんのいる方向へ視線を戻し、口を開いた。
「あの人はもういいのー?」 「うん、もういいよ」 「そっかぁ…ねぇメイ」 「ん?」 「あの人とどんな関係なの?」 「は?」
目が点になるとはこのことを言うのだろうか。ジャックは少しだけ眉を寄せて私を見つめる。なんだかこのやり取り、デジャヴを感じたのは気のせいだろうか。
「普通に友達だよ」 「…ふーん」 「聞いといてなにその反応」 「いんや、別にー…」
私の答え方に不満があるのか、心なしかいじけているように見えた。分かりやすいなぁ、と溜め息をつくと共にどうしたものかと頭を捻る。 私の数歩先を歩くジャックの背中を見つめているとふと、ジャックは私のこと信じられないのかな、と何故かそう思ってしまった。こうしていつもいじけられていては困るが、ジャックから見て、そんなに私は信じられないのだろうか。
「…ね、ジャック」 「んー?」 「私のこと、そんなに信じられない?」 「……へ?」
ジャックは歩いていた足を止めて、ゆっくり私に振り返る。目を丸くさせて私を凝視して、しばらく固まった。 私は構わず歩き続け、ジャックを追い越す。なんだか私が意地悪したみたいな感覚だ。ジャックは何も答えないし、答えないということは信じられないのだろう。 悲しいと感じたのはきっと気のせいだ。
「まっ、待って、メイ!」 「…ジャックが固まってただけじゃん」 「そ、そうだけどさぁ…」
ジャックは慌てて私の隣に駆け寄る。私は前を向いてできるだけジャックを見ないようにしていた。
「…メイ」 「なに?」 「例えば、だよ?例えばさぁ、僕が他の女の子と話してたらメイはどうする?」 「…何、それ」 「まぁまぁ、いいから少しだけ考えてみてよー」
いきなり何を言い出すかと思ったら、また変なことを言い出したもんだ。 例えばジャックが他の女の子と話していたら?そう言われ一応頭の中でその光景を浮かべてみる。その光景を浮かべて、正直何も感じなかった。 例えばではなく、そんなことがもし今あったとしても、私はきっと何も感じないだろう。 何も感じないのは何故?私がジャックのことを何とも思っていないから? それは違うと思う。
「ね、メイはどうするの?」 「…どうもしないよ」 「……そっか…そう、だよねぇ」
そう言って乾いた笑いをするジャックを盗み見る。どうもしないのはジャックのことを何とも思っていないからではない。 その光景を浮かべても、ジャックは私を見つけたらすぐ来てくれるって信じているのだ。
「あは、やっぱそうかぁ」 「…私、ジャックのこと、信じてるから」 「?…え、と…どういう…?」 「だから、例えばそういう光景を目にしても、ジャックは私を見つけたらすぐ来てくれるって信じてるから」 「………」 「それに、ジャックを疑うくらいなら傷つくほうがいいし」
疑ったらキリがないし、疑っても何も生まれない。 9組の候補生になってからというものの、私は疑ってばかりだった。だけどこんな自分でも信じてくれる人がいることに気付き、その人を信じようと思えることができた。大切な人を疑うなんてできないし、したくない。疑って生きていくよりも、信じて生きていくほうが私の力となり、生きる糧となるから。
「ジャックが私を信じていなくても、私はジャックを信じてるよ」 「………」 「私の、大切な人だからね」
そう言うとジャックは立ち止まり顔を俯かせる。 ジャックの顔色は私からは見えないけど、伝えたいことは全部伝えた。あとはジャックが自分で答えを出すだけだ。信じてほしい、と言うんではなくて自ら信じよう、と思ってほしいから、私から信じてだなんて言わない。
「…じゃあ、私、行くね」 「…っま、待って!」
踵を返して再び歩き出そうとしたらジャックに腕を引っ張られ後ろに身体が傾く。気付いたら背中に軽い衝撃と温もりを感じた。 ジャックの腕が自分の後ろから出ているのを見て、後ろから抱き締められているのだと気付くのに時間はかからなかった。
「ジャ、ック?」 「ごめんっ…、信じてない、わけじゃない…けど、やっぱり不安で…!」 「…うん」 「自分から側にいるって言ったのに…、メイからどう思われてるか気になって…」
ぽつぽつと呟くように言うジャックに、私は静かに耳を傾ける。
「メイにとって僕は…邪魔な存在なのかなって感じてた」 「え、そうなの?」
ジャックに限ってまさかそんなことを思っていたなんて思わなかった。驚く私にジャックはピクッと動く。 そしてゆっくり身体を離したのでジャックに振り返ると、ジャックの顔はひどく泣きそうな顔をしていて、ぎょっと驚いてしまった。
「メイ〜…」 「な、ど、どしたの?」 「う〜…僕ってほんとバカだよねぇ…」 「えぇ?」
意味がわからない。 ジャックがバカなのは前から知っているが(勉強の面だけだけど)一体どうしたのだろう。首を傾げてジャックを見ていたら、今度は真正面から勢いよく抱き締められた。
「ちょ、」 「僕も、メイのこと信じる!」 「う、うん?ありがとう…?」 「うし!元気出た!朝食食べに行こう!僕が奢るから!」 「わっ!?」
さっきからジャックに振り回されてばかりだが、まぁ、ジャックが元気になったならそれはそれで良しとしよう。ジャックに手を引っ張られながら、しょうがない子だなぁ、なんて暢気に思うのだった。
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