120.5




 メイと別れたジャックは教室で自分の席に大人しく座っていた。今日だけメイには近付かないと、先ほどナギと約束したからだ。


(暇、だなぁー)


 教室にいてもやることがないジャックは、小さくふぅ、と溜め息をつく。
 メイは今どこにいるのかなぁ、と思いながら頬杖をついた。そんなジャックにキングが話し掛ける。


「お前が教室にいるなんて珍しいな」
「…まぁたまにはここでのんびりするのも悪くないかなぁって思ってさぁ」
「メイのところには行かないのか?」
「………」


 間髪入れずにキングが問い掛ける。
 そりゃ会いたいに決まってるじゃん!と思いながらも、冷静に今日はメイのところに行けないのだとキングに言う。キングはそうなのかと言いジャックの隣に座った。


「行けない理由でもあるのか?」
「んー…メイだって自由に行動したいだろうなって」


 自分でそう言ったあと、ふと疑問を抱く。
 自分がいるせいで、メイは自由になれないのではないか?今まで自分がしたいようにしてきたが、それは自分のためであってメイのためではない。
 そう考えて、ジャックはハッとする。自分はメイの気持ちを考えていないことに。

 メイはもしかしたら自分のことを邪魔だと思ってるかもしれない。前に甘えてもいい、と言われたことがあったがあれはメイなりの気遣いだったのでは?あの時のメイの行動を見てお世辞だなんて思いたくないけど、メイは本当は迷惑がっていたりして…。

 考えれば考えるほど、どんどんマイナスな方向へ向かっていく。


「?どうした、ジャック」
「キング…僕…」


 ジャックの顔が曇ったことにキングは見逃さなかった。何を考えてそうなったのかは知らないが、ジャックは不安そうな顔をしてキングを見つめる。
 キングはこんなジャックを初めて見たことに驚きを隠せなかったが、仲間が困っているのを見過ごすわけにはいかない。


「俺でよかったら聞いてやる、話してみろ」
「……僕はメイにとって邪魔な存在、なのかなぁ」
「は?」


 今さら何を言い出すのだろう。そんなことを思いながら、どうしてそう思ったのか、とジャックに問い掛ける。
 ジャックは顔を俯かせてぽつぽつと話し始めた。


「前、僕にメイが甘えてもいいって、言ってくれたことがあって」
「(そんなこと言ったのか)あぁ」
「だけどそれは本当はメイなりの気遣いなのかなって」
「なんでそう思うんだ?」
「メイは言わないけど、僕がいなかったらメイは何にも遠慮しないで自由にいられるでしょ?」
「それはそうかもしれないが…」
「メイにとったら、僕は邪魔な存在なのかも…」
「………」


 自分で言って自分で落ち込むジャックに、キングはどうしたものかと頭を捻った。メイがジャックを邪魔者扱いしているなんて初耳だし、自分からしてみたらジャックを邪魔者扱いしてるなんて思えない。いつもポジティブなジャックがメイのことでこんなネガティブになるなんて、それだけあいつを慕っているんだな、とキングは密かに思う。
 ズーン、と落ち込むジャックにキングは肩を叩き自分なりにジャックを励ました。


「あいつはそんな奴じゃないと俺は思うぞ」
「…メイは優しいから」
「あいつの考えてることはお前でもわからないだろう?そういうことはハッキリ聞いてみるべきなんじゃないか」
「ハッキリ聞いて、ハッキリ言われたら…僕、立ち直れないよ…」
「…少なくとも俺や0組の皆は、メイがお前のことを邪魔だなんて思ってはないと思うが」
「…本当に?」
「あぁ」


 自信はあった。
 今までメイと過ごしてきて、そう断言できる。なんだかんだメイはジャックに甘いし、それに0組の皆よりも一番ジャックを見ている。
 キングに励まされ、しかも皆自分の味方なんだとわかったからか、ジャックは照れたようにはにかんだ。


「ありがとう、キング!…今度、聞いてみる!」
「ふっ、頑張れよ」
「へへ、なんかお腹減ったなぁー。キング、リフレ行こう!キングの奢りでねぇ!」
「…仕方ないな」


 先ほどのジャックはどこへやら。いつものジャックに戻り、キングも安心したのか自然と頬が緩む。
 メイという一人の人間の存在がこんなにも影響を与えるなんて、つくづく不思議な奴だな、とキングは思うのだった。