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 迷子の足音消えた…代わりに祈りの唄を…。
 そこで炎になるのだろう…続く者の灯火に…。


「………」


 目を開けると朝の日差しが差し込んでいるのが目に入った。しばらく天井をぼうっと見つめる。
 エースの歌った歌が夢に出てきて、それを誰かが歌っていた。エースの声ではない他の人が歌っていて、誰だったんだろう、と呟いてると扉をノックする音が耳に入り我に返る。


「!はい?」


 キィ、と扉が開き部屋に入って来たのはナギで、朝からどうしたの、と問い掛ける。ナギの手にプリントの束が握られているのを見て、だいたい予想はできた。


「任務だぜ」
「…やっぱりね」
「お前寝間着じゃねぇか。寝起きだったか?」
「うん、寝起きでした」


 そう言うとナギは起こして悪い、と謝ってきた。寝起きにはかわりないが、ナギに起こされたわけではないから気にしないで、とそれとなく言うとナギはフッと微笑んでそっか、と呟く。
 いつもなら意地悪そうな顔をするのに、ナギのそんな微笑み方、見たことがない。驚く私に構うことなく、ナギはプリントの束を差し出した。


「今度の任務、エイボン地方の奪還だとよ」
「エイボン地方か…。私も出るの?」
「当たり前だろ。ま、俺らは裏で任務すんだけどな」


 プリントの束を受け取り、一通り見てみる。そのプリントの束の中には、エイボン地方の地形や陣地の位置などが記載されていた。
 裏の任務とはなんなのだろう。


「その束のプリントは表上の任務内容。こっちのプリントが俺らがやる任務内容な」
「少な。……何これ、ほとんど援護のようなものじゃん」
「だとしても見つかったらアウト、だぜ」


 ナギからプリントの束とは別のプリントを受け取り、内容に目を通す。そこには皇国の動きを監視し、その都度報告。場合によっては内部に潜入し、内部情報を本陣、及びモーグリに速やかに報告する、という内容だった。
 確かに見つかったらアウトかもしれない。


「モーグリに報告ってどのモーグリ?」
「お前は0組のモーグリ担当」
「……へぇ」
「ちなみに俺もだけどな」


 0組とは切っても切れない縁があるのだろうか。それはナギにも言えることなのだけれど。何にせよ、今回もナギと一緒ならそれほど苦労することはないだろう。
 私がよろしく、とナギに言うとナギはおう、と返事をした。


「今回もあちこち移動するだろうからチョコボは必須だな」
「だろうね。頑張ってもらわなくちゃ」
「お前はいいよなー…あのチョコボ、優秀だし」
「頼もしいよね」


 羨ましげに私を見つめるナギに苦笑する。任務の話を一通り終えた私たちの間に、何故か沈黙が流れた。
 なんだろう、この沈黙。ちらっとナギを盗み見るとナギは私を真っ直ぐ見ていて、しかも顔が真剣だったからか不覚にもドキッと胸が跳ねてしまった。


「…な、何かついてる?」
「ん?…あぁ…ついてる」
「え!?ど、どこに何が!?」


 何が顔についているのか私にはわからない。
 私は両手で顔を覆い、少しだけ顔を擦る。これで落ちたかな、とナギを見ると未だ真剣な表情をして私をジッと見ていた。そんな見つめられると段々恥ずかしくなってくる。


「まだついてる?」
「あぁ、ついてるぜ」
「えー…どこ?」
「こことこことここ」
「………」


 ナギが指を指した場所は目と鼻と口の部分で、なんだ目と鼻と口がついてるって言いたかったのか。ふざけてたな…と私は呆れて溜め息をついた。そんな私にナギがおもむろに立ち上がり、私に近付いてくる。
 何しに来たのかとナギを見つめていると、ナギは片手をあげて私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で始めた。


「……何するの」
「ん、いやーなんとなく」
「頭、ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃん」
「来たときからぐしゃぐしゃだったけどな」
「…寝起きだったからね」


 ナギの謎の行動に首を傾げる。
 今さら髪の毛がぐしゃぐしゃになったって後で整えればいいのだが、いつまで経ってもナギは私の頭から手を退けなかった。
 どうしたんだろう。そんなことを思っていたら、ナギの手が後頭部に移動したと思ったら突然グッと前に押し出され、抵抗する術もなくナギの胸下辺りに顔が埋まった。


「……頑張ろうな、任務」
「?う、うん…」
「じゃ、また当日迎えに来る」
「は、はぁ…」


 そう言うとナギは颯爽と私の部屋から出ていった。一体何だったんだろう。
 ナギの意図がわからないまま、私は呆然とするしかなかった。


(今度こそ、離さねぇ)


ナギがそう心に誓っていたことを、私は知るよしもなかった。