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 エースと別れた私は歌のことを考えながら噴水広場を歩いていた。行き交う候補生たちが私を見ては冷ややかな目をする者もいて、それを横目に噴水広場の縁に座ろうとする。


「メイさん!」
「!」


 聞き覚えのある声にハッとして私は顔をあげる。そこにはレムさんが手を振って私に近付いてくるのが見えた。
 あの歌のことばかり考えてて全く気がつかなかった。


「久し振り、だよね?」
「そ、うだね」
「なんか難しい顔してたけど、どうかしたの?」


 顔を覗き込んでくるレムさんに、私は苦笑してちょっとね、と言葉を濁す。隠すつもりなんてないが、だからといって話すことでもないかなと思ったからだ。
 釈然としない私にレムさんは膨れっ面になる。


「気になるなぁ」
「そんな膨れっ面にならなくても…かわいい顔が台無しだよ」
「すぐそうやってはぐらかす」


 はぐらかしたつもりはなかったのだけど、と私は苦笑を浮かべる。そんなレムさんに観念した私は喋り始めた。


「エースの歌ってた歌のことを考えてたの」
「エースが歌ってた歌…?」


 首を傾げるレムさんに、そう、と頷く。少し考えたあと、レムさんはエースが歌を歌っているのを思い出したのかあの歌ね、と呟き私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。


「それがどうしたの?」
「んー、なんとなく、知ってるようなって思って。だけどどこで聞いたのか全く思い出せないんだよね」
「ふーん…思い出せるといいね」
「ん、そうだね」


 このモヤモヤがいつまで続くのかわからないが、エースの歌は一旦胸の奥にでもしまっておこう。それよりもレムさんはどうしてここにいるのか。そう単刀直入に聞いたらレムさんは顔を俯かせた。


「最近、マキナの様子が変だから……、ここにいればマキナがどこか行く時に会えるかなって思って……」
「レムさん…」


 レムさんが敢えてここを選んだのは、噴水広場は魔導院の出入り口に続く道だからだろう。そういえば私もまだマキナには会っていないし、見かけていない。
 こんな様子のレムさんに、未だマキナに会えていないのだと察する。全くレムさんに心配かけさせて、マキナは一体どこにいるのか。


「ね、メイさん」
「ん?」
「誰かのためにできることって、すごく少ないよね」
「…うん、そうだね」
「でも、何かしてあげたいってことを伝えることが大事だよね」


 まるで自分に言い聞かせるようにレムさんは言う。
 マキナのためにできること、マキナの力になりたいこと、レムさんはそう言いたいんだと思う。そんなレムさんに私は胸の奥がジンと熱くなった。


「レムさん」
「ん?」
「マキナ見かけたらすぐレムさんのところ行くように伝えとくね」
「!ありがとう、メイさん!」
「そのかわり、あんまり無理しちゃだめだからね」


 レムさんの病気のことを唯一知ってるのは私とドクター・アレシアしかいない。
私がそう言うとレムさんは困ったように微笑んで、わかった、と頷いた。