10.5




「聞いているのですか、ジャック!」
「ああー聞いてるってぇー」


 0組教室。トレイが何やらジャックに説教をしている。聞けばまた9組の候補生に迷惑をかけていたらしい。
 ジャックがこんなにも人に執着しているところは初めて見た。自分では、しつこいと嫌われるよ、と言っているくせに、自分がその候補生にしつこくしていることに気が付いていないのだろうか。
 セブンは溜め息を吐いてトレイにもういいじゃないか、と持ちかける。ジャックはジャックで話が終わったら、また教室から出ていこうとし、それを必死にトレイが止めていた。
 先ほど、わたし達には見せたことのないカオをしていた、とデュースから聞いた。今のジャックはいつものジャックで、私達以外のその9組の候補生にはいつものジャックではないジャックだった、ということなのだろうか。なんだかよくわからなくて頭が痛くなってきた。


「全く、どうしてあなたはメイさんの側を離れないんです?」


 ジャックが付きまとっている9組の候補生はメイと言うのか。セブンはトレイとジャックの話に耳を傾ける。


「ただなんとなくだよー。側に居たいなぁって思ったから側に居るだけで」
「メイさんにとってそれが迷惑だということがわかりませんか?」
「メイは今まで一度も僕のこと迷惑だなんて言ってないしー」


 ジャックは何を思って側に居たいと言っているのだろうか。それは本人にしかわからないし、本人もきっとそれをよくわかってはいないのだと思う。
 トレイが教室の入口に立ち塞がり、教室から出られなくなってしまったジャックは仕方なく自分の席につき、溜め息を吐いた。


「……珍しいな、ジャックが溜め息なんて」
「セブンー!トレイになんか言ってやってよー!」
「いや、私もトレイの意見のほうが正しいと思うが」
「えぇー、セブンまでトレイの味方なのかぁー…」
「…ジャック、聞いてもいいか?」
「んー?」
「どうして、その9組の候補生の側に居たいんだ?」


 単刀直入で言う。無駄な遠回しの言い方などいらない。マザーに引き取られてから今までずっと一緒に生きてきた仲間だから。
 ジャックはきょとん、とした顔でセブンを見る。そしていつもの笑顔を浮かべてこう答えた。


「それが僕にもよくわからないんだー。会った瞬間、あ、この人の側に居なくちゃって思ったんだよねぇ」
「…………」
「だから、側に居たいんだ。よくわからないけど、側に居てほしいって思っちゃったからさぁ」


 ジャックの言う側に居なくてはならない人というのはどんな人なのだろうか。セブンは少しその人に興味が湧いた。仲間がそれほどまでに思う人の存在が、気になるのだろう。
 メイさんという人はどんな人なんだ、と問うと、ジャックはさっきまでとはうってかわり、ニコニコと笑いながら教えてくれ、さらにその人との今までの経緯までこと細かく聞かされた。そこまで聞いてないんだが、と遮りたかったが、ジャックの楽しそうに話す顔を見ていたら、不思議とジャックの話を聞き入っていたセブンだった。


(でね、すごい勢いで背負い投げされて本当びっくりしたよ!)
(……ジャック、それは背負い投げされても仕方ないと思うが)
(確かにそうだけど、でも正直な感想を言っただけでー)
((苦労するな、メイさんも…))