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 リフレッシュルームからサロンへ飛び、大きなソファへ腰をおろした。
 お腹いっぱいになったからか、眠気が私を襲う。我慢できなくなった私はソファに横になって目を閉じた。


「あの人…朱雀に秘密で白虎に滞在してた人じゃない?」
「朱雀に秘密って…なんで白虎から戻って来たんだろう」
「実は白虎のスパイだったりして」
「…0組といい、あの人といい、朱雀をどこまで追い詰めるつもりなのかしら」


 私はそれを聞いて小さく溜め息をつく。
 ヒソヒソ声にしては大きな声で話しているな。まるで私に聞こえるように言ってるみたいで、居心地が悪い。
 ふと、セブンの言っていた言葉を思い出した。


「信じてくれる奴と信じてくれない奴…か」


 セブンの言葉に私は信じてくれる人に感謝しなきゃ、と思えるようになった。信じる、という言葉は不思議だ。
 誰かが信じてくれている、とわかったらこんなにも心強くなるなんて、と自然と頬が緩んだ。


「……メイさん?」
「?…あ、デュースさん」


 目を開けると首を傾げて私を覗き込んでいるデュースさんと目が合った。デュースさんはハッとして起こしました?と眉を八の字にさせる。
 それを私は否定して体を起こした。


「今来たとこだから、そんな気にしないでいいよ」
「そうですか…?」
「うん。あ、ここ座る?」


 自分の隣にポンポン、とソファを手で叩く。デュースさんはじゃあ、と言い遠慮がちに座った。
 そういえばこうしてデュースさんと二人っきりってなかったような気がする。そんなことを思っていたら、デュースさんがそういえば、と口を開いた。


「メイさんとこうして二人っきりで話すのは初めてですね」
「あ、私も思った」


 どうやらデュースさんもそう思っていたらしい。デュースさんはきょとん、としたあとフワッと笑ってそうなんですか、と言う。
 なんだろう、自分女だけどキュンとしてしまった。


「デュースさんって」
「?はい」
「癒し系だね」
「い、癒し系、ですか?」


 私の突然の発言に、デュースさんは目を丸くさせて驚いた様子で、真剣な表情の自分にデュースさんはどう反応したらいいかわからないようだった。そんな可愛らしい反応に私は頬が緩んだ。


「ふふ、そういうところも癒されるなぁ」
「え、えぇ?そうでしょうか…」
「うんうん。いつでも側にいてほしいくらいだよ」
「え?!」


 デュースさんはアワアワと落ち着きのない様子で、変なこと言ったかな、と自分の発言を思い返す。
 うーん、いつでも側にいてほしいってところか…なんか男っぽい発言だったかもなぁ。なんて思っていたら、デュースさんから思いもよらない発言が出てきた。


「じゃ、ジャックさんのほうがいいんじゃ…」
「え゙」


 まさか、デュースさんからもジャックの名前が出てくるなんて…と私は項垂れた。そんな私にデュースさんは心配そうな表情で顔を覗き込む。


「ど、どうかしましたか?」
「……いや…デュースさん、なんでジャックの名前を…」
「え、あ、メイさん、ジャックさんといるときすごく穏やかな表情してるので…」
「え、そう…?」
「はい」


 お互いきょとん、とした顔をして見つめあう。
 すごく穏やかな表情?ジャックといるとき?そんな表情してたなんて気が付かなかった…ていうかまさか、ねぇ?
 デュースさんは首を傾げて気が付かなかったんですか?と聞いてきた。


「うん…初めて言われたよ」
「そうですか…な、なんかすみません…」
「え!?あ、謝らなくていいよ!」


 何故か謝ってくるデュースさんを宥めながらも、デュースさんに言われた言葉が胸に残るのだった。