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 あの後、セブンはドクター・アレシアの検診だと言ってリフレッシュルームから出ていった。
 1人になってフッと肩の力が抜ける。今までずっと1人で過ごしていたからか(たまにナギがいたが)なんだか変に力が入ってしまう。
 一緒に過ごすのが嫌なわけじゃない。ただ、慣れていないだけだ。


「メイじゃない!」
「!カルラ?」


 久しぶりに聞く声に振り返れば、右手をあげてハァイ、と言うカルラがそこにいた。こんなときに暢気な、と溜め息をつけばカルラはいきなり顔を近付けてきた。顔が近い。


「どうしたの?溜め息なんかついちゃって。あ、悩み事?仕方ない、この私が聞いてあげるわ!友人価格で」
「結構です」


 そうキッパリ言うとカルラはいつものメイね、と肩に手を置いて笑った。そんなカルラに私はいつものって何、と返すと元気で何よりだわ、と言われそんな発言がカルラから出るなんて思わなかった私は面を食らってしまった。


「何よ、その顔は」
「い、いや…」
「失礼しちゃうわ」


 腰に手をあてて、フン、とカルラは笑う。そこへナインとサイスさんが魔法陣から現れ、ナインが私に気付き名前を呼ばれた。
 私とカルラは必然的にそちらに視線を移す。


「よぉ、メイ!お、おめぇがカルラっていう守銭奴か」


 ナインがカルラに近付いてくる。
 なんでナインはこうガンを飛ばすような感じで近付いてくるのだろう。まぁそれがナインか、と私は座ったまま頬杖をついてナインを見るとサイスさんと目が合ってしまった。
 もちろん無視される。


「守銭奴、よりも炎の商売人とか呼んでほしいな」
「はぁ…にしても院内でそんだけ好き勝手やって、よく上の連中に目を付けられないな。本当はここで商売なんて禁止だろ?」


 サイスさんがダルそうに溜め息をつき、腰に手をあててカルラに疑問をぶつける。そんなサイスさんにカルラは笑って、得意気な表情で口を開いた。


「武官も文官もみ〜んな節穴なんだから、いくらでも誤魔化せるわよ」


 そう言うカルラの背後から、ちょうど今話していた朱雀文官がタイミングよくやってきた。


「お、カルラ君、君がメイ君以外の誰かといるとは珍しい。0組と仲良くなったのかい?」


 カルラはさっきとはうってかわり、真面目な顔になって文官に振り返る。声もさっきの声とは明らかに違っていて、さすがカルラだなぁ、と感心しながらそれを傍観する。


「勿論ですわ!先生の教えに従って、無償で助け合う精神を行動に移しているんです!」
「さすがカルラ君。成績がいいだけでなくその素晴らしい生活態度。まさに模範だ!メイ君も0組の諸君も見習うように!」


 よくもまぁそんな嘘を簡単に言えるもんだ、と呆れてしまう。カルラの成績が良いのは間違いないからか、文官は疑いもせずにリフレッシュルームから去っていった。
 最後まで見送ったカルラは、文官がリフレッシュルームから出ていったのを見てナインたちに振り返る。


「ふっ、大人なんてちょろいもんよ。じゃ、なんか困ったら声かけてね。有料でなんでもやりますから!メイも、遠慮しないでいつでも頼って来ていいからね!」


 そう言うとカルラは機嫌良さそうにリフレッシュルームから出ていった。ふとナインを見ると、バチッと目があってしまう。サイスさんは腰に手をあてて呆れた様子だった。


「ナイン、よく見ておけ。あれが魔物だ」
「ああ、世も末だぜ、コラ。メイもよくあんな奴と一緒にいれるな、オイ」
「あ、あぁ…もう慣れたよ」


 急に話を振られて驚いたが当たり障りなく答える。サイスさんは横目で私を見ていて、なんか気まずく感じてしまった。
 まだサイスさんは私を信じていないらしい。無理もない、と私は肩を落とし席を立った。


「?もう行くのかコラァ」
「うん、ご飯も食べたし。サロンでも行ってくる」
「そうか、んじゃあまたな、メイ!」
「またね、ナイン、サイスさん」


 サイスさんの目を見ると私を真っ直ぐ見ていて、サイスさんと目があったと思ったらパッと顔をそらされてしまった。少しは警戒を解いてくれるといいんだけど、と心の中で苦笑して私はリフレッシュルームを後にした。