114




 クオンから逃れた私はナインにメロエ地方の地図を渡し、足早にクリスタリウムを後にした。
 魔法陣の近くで次にどこ行こうか迷っていると、お腹がグウと鳴る。そういえばまだ朝食をとってなかったな。朝食といえばリフレッシュルームのマスターの顔がすぐに浮かび、魔法陣でリフレッシュルームへと移動した。

 リフレッシュルームに移動すると、ご飯のいい匂いで充満していた。匂いを嗅ぐとさらにお腹が減っていくのがわかる。
マスターに会うのも久し振りだし、とカウンターに向かって足を踏み出した時だった。


「メイ…?メイじゃねぇか!」
「!」


 特徴的のある声に私は振り向く。そこにはエンラが嬉しそうに私に駆け寄ってきた。こういうときに限って、と思ったが嬉しそうな顔をしているエンラに毒気を抜かれる。


「お前マジでメイか!?」
「…そうですけど」
「お前っ…!無事で何よりだよ…俺、心配してたんだぜ…」
「え」


 珍しいこともあるもんだ。
 まさかエンラがこんなに私を心配してくれるとは思いもよらなかった。一言お詫びを言っておかなければ。


「エンラ…ごめ」
「レムちゃんの次にだけどな!」
「…………」


 エンラのその言葉に、お詫びを言うのも気が引けてむしろどうでもよくなってしまった。はいはい、とエンラのことを聞き流しカウンターのほうへと歩き出そうとしたらエンラにまた止められる。


「なんだよ、俺が心配したってんのに」
「私よりレムさんのところ言ってソレ言えばいいじゃん」
「なっ…は、恥ずかしいだろ!」


 そんな消極的だとレムさん、誰かさんに取られちゃうよ、と言えばエンラは酷く落ち込んでしまった。まさかそんな落ち込むとは思わなかった私は慌ててエンラにごめん、と謝る。
 エンラはいいんだ、と呟いていたが私のこの発言は結構深く突き刺さったらしい。落ち込むエンラに私はエンラの気分が良くなる話題を切り出そうと、頭を捻った。


「あー……あ、そういえばさ、エンラはレムさんのこといつ好きになったの?」
「!…聞きたいか?」
「………き、聞きたいなぁ」


 正直聞きたくはなかったが、これでエンラの機嫌が良くなるなら、と私は聞きたいと口にする。するとエンラはみるみるうちに機嫌が良くなり、ペラペラと喋り始めた。


「よーく聞いとけよ!…俺、初めて魔導院に来たときに道に迷っちゃってさ。魔法陣から教室に来いって言われてたんだけど、魔法陣が使えなくてあせってたんだ」
「へぇー」
「そしたらさ、ある子が俺に気付いて話しかけてくれて。俺の登録がもれていることを、院生局に言ってくれたんだ」
「そのある子がレムさん?」
「そう!そうなんだよ!レムちゃんはもうきっと忘れてると思うけど、俺はその親切がすごい嬉しくてさ。一生忘れないと思うんだ」
「そうなんだ」


 その話をするエンラの表情は凄い優しい表情で、本当にレムさんのことが好きなんだなぁ、と感じる。そんな表情を私もできるのかな、なんて余計なことを考えていたらエンラが突然、ウーと唸り始めた。


「ど、どうしたの?」
「なんかこの話したからか猛烈にレムちゃんに会いたくなってきた…!ちょっと行ってくるよ、じゃあまた今度ゆっくり話そうな!」


 そう言うとエンラは魔法陣に行き、リフレッシュルームからいなくなった。なんか嵐が去ったという感じだ。
 でも、あんな真っ直ぐなエンラを見たからか、私はエンラの恋を応援しようと思うのだった。