110




「メイ!」


 自分の名前を呼ばれて振り返ったらそこにはアキが泣きそうな顔をして立っていた。私は久し振り、と言うとアキは突然私に抱き着いてきた。


「メイ…!よかった、無事で…私、メイはもう戻ってこないかと思ってた…」
「…心配かけてごめんね」


 涙声のアキに私は安心させるかのように背中をポンポンと優しく叩く。しばらくそれを繰り返していると落ち着いたのか、アキは少しだけ体を離して小さな声でごめん、と謝った。


「感動の再会ってやつか…泣けるなぁ」
「んなたった一月そこらでしょ、メイがいなくなったの…泣くほどでもねぇと思うんだけどな」
「一番メイちゃんを心配してたのナギだったよな」
「……うっせ」


 アキとの再会に私まで鼻の奥がツンとなる。泣くまいと我慢して、アキと目線を合わせた。
 目線が合うと私たちはお互いに笑い合う。こうして自分の安否を心配してくれる人がいるのも悪くないなと思ってしまった。


「それにしても大変だったね」
「うん、まぁこうして無事に帰って来れたからよかったよ」
「うん!そうだね」


 あはは、うふふ、な感じの私たちにヒショウさんがよかったなぁ、と言って近付いてきた。アキちゃん、メイちゃんのことが心配で心配で仕方なかったんだよ、と余計な一言を放ったせいで、ヒショウさんはアキに突き飛ばされてしまった。


「よ、余計なこと言わないでください!」
「「…………」」


 私とナギは飛ばされたヒショウさんを見て苦笑するだけだった。
 アキとはまた今度お茶をすることを約束し、私とナギはチョコボ牧場を後にする。もう少しチョコボ牧場に滞在していたかったが、予想していた通り軍令部長にお呼ばれを受けてしまった。



 ナギと私は軍令部へと足を運び、扉を開ける。軍令部長を探そうとしたら突然ナギに腕を引っ張られた。


「ちょ、どうしたの?」
「シッ!アレ、見ろよ」
「アレって…?クラサメ、隊長?」


 ナギの視線の先にはクラサメ隊長と軍令部長が何やら話し込んでいた。私とナギは2人に気付かれないように、然り気無く近付き聞き耳をたてる。


「……この度の0組の失態は看過できん!奴らが朱雀をこの窮地に追い込んだのだ!」
「………」
「0組の指揮隊長である貴様もただで済むと思うなよ」
「無論です。彼らの行動の責任は私にあります」
「長い間戦場を離れていたとはいえ、元朱雀四天王の名は伊達ではあるまい。次のミッションに参戦し、戦果を上げてくるのだ」
「………」
「我が軍を勝利に導いた暁には今回の0組の件は不問にしよう」
「格別のお計らい、感謝します。必ずご期待に添えるよう、全力を尽くしましょう」


 そう言うとクラサメ隊長は軍令部を後にする。
 クラサメ隊長を見送った私に、ナギが納得いかねぇな、とボソっと呟く。それは私も同感だった。
 0組はあること無いこと擦り付けられただけで、0組もクラサメ隊長も誰も悪くない。それを軍令部長はあたかも0組やクラサメ隊長のせいだと言い張り、無理難題を押し付けた。
 0組のことといい、クラサメ隊長のことといい、どうしてこう上手くいかないんだろうか。


「クラサメ隊長は…これで、いいのかな」
「……これが朱雀のため、だと思ってるんだろ、きっと」
「………」


 朱雀のため、とは言え軍令部長の物言いに納得がいくわけなかった。元四天王の言えど魔力だって衰えているだろうし、死にに行けと言っているようなものだ。
 それをわかった上でクラサメ隊長は覚悟を、決めたんだろうか。


「ふんっ、死にぞこないに何ができる」

(っ!?)
(!ちょ、メイ!落ち着けって!)

「意地の悪いこと。氷剣の死神はもう使い物にならないでしょうに。今のクラサメにできるのは知識を与えることだけ。彼を戦場に送っても無駄な死人を増やすだけでは?」
「ルシの支援でもさせるさ。それに私が見据えているのはこの戦いではない。戦後だよ…今後もあの女、ドクター・アレシアにデカい顔をさせるつもりはない!」
「ドクター・アレシアを追い出すためにクラサメと0組を戦死させたいのですか?」
「0組の崩壊はあの女の終わりでもある。次の戦いは多大な犠牲を伴うだろう。そして恐らく勝機はあるまい…。ならば、邪魔な味方を葬る場にするのが賢い選択。あの女に戦後の議会を握らせはせん」
「あまり、私や院長を巻き込まないでくださいな」


 たまたまクラサメ隊長と軍令部長の話を聞いていた兵站局局長が軍令部長に話しかける。その内容を聞いてしまった私は、堪忍の緒が切れてしまい軍令部長へと詰め寄った。
 私に気付いたであろう軍令部長に小刀を突き付ける。


「なっ!?」
「…私はもう、あなたについていけません」
「あなたは9組のメイ…?!今の話、聞いて…」
「おい、メイ!さすがに武器はしまえって!」


 ナギが慌てて私に駆け寄る。その際に、私が軍令部長に武器を突き付けているところを周りに見えないように身体で隠してくれた。
 いきなり武器を突き付けられたことに、軍令部長は怯えた目で私を見つめている。


「ドクターが気に入らないから0組もクラサメ隊長も死なすだなんて、あなたのやり方は白虎とかわらないですよ」
「き、さま…!」
「0組の監視なんてもうやめます。どうせ私がドクターに処分を預けられたことも気に入らないでしょうし。これから私は、私の意志で動きますのでそのつもりでよろしくお願いしますね。…では失礼致します」


 私は武器を懐に仕舞い、愛想笑いをして軍令部を後にする。
 ハッキリ言ったことに少しはスッとしたが、まだモヤモヤは取れなかった。