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 リフレッシュルームに着くと朱のマントが目に入る。しかもあの後ろ姿は、保護者役のトレイさんだった。ジャックも気付いたのか、げぇと声を出していた。仲間にげぇ、は失礼だろう。


「あ、うわさの0組さんね!初めまして!私はカルラっていうの、よろしくね!」


 トレイさんにジャックを突き出そうとしたら、何やら自己紹介が始まってしまったのでそれが終わるまでカウンターの椅子に座って待つことにした。ちなみに三人が見える位置に座っている。
 ジャックは私をリフレッシュルームから出そうと服を引っ張っているが、私はカウンターにしがみついて抵抗する。ていうかあのトレイさんたち、話しに夢中なのかこっちに全く気付かない。普通この小競り合いに気付いてもいいだろう。


「ていうか服伸びるから引っ張るなぅむ!」
「シーッ!気付かれるでしょー!」
「んんー!?」


 今度は口を塞いできた。どうやら、私がカウンターにしがみついて離れないことに諦めたのか、今度はあの2人に気付かれないようここで過ごすことを決めたらしい。
 何が何でもトレイさんに引き渡してやる。早く自己紹介終わってほしい。


「ああ、噂はお伺いしていますよ。成績優秀な優等生のカルラさん」


 ジャックに口を塞がれ、小ぢんまりとしながら三人の様子を伺う。ジャックのほうが力も体格も上なもんだから、カウンターに引っ付くことくらいしかできない自分が情けない。でも、強引に連れていこうと思えば連れていけるのに、それをしないジャックは優しいと思う。ほんの少しだけだけど。
 まぁでも今の行為は全く優しくもなんともない。ただこの状況を早く打破したいだけとみているが。


「優秀っていっても、0組の皆さんには敵わないですよ」
「へ〜優等生さんなんだ〜」
「そんなことないです、ただ困ってる人をほっとけない性質で」


 ああ、早く終わらないかな。いつまでこの状況を我慢しなければならないんだ。
 この状況と言うのは、私がカウンターの椅子に腰をかけ、その後ろでジャックが私の口を手で塞ぎ、あの三人から見えないように屈んでいるという状況だ。
 端から見たら何かしら勘違いされそうな状況だが、抵抗しようにもジャックが全く動かない。ほかの候補生からも変な目で見られてるし、というかこういうときに限ってナギは現れないのか、と神出鬼没野郎を恨んだ。


「…ねぇ」
「ん」
「この状況……なんか、燃えない?」
「っ!」


 カッと顔が熱くなる。そして気付いた頃には私はジャックを投げ飛ばしていた。この狭いリフレッシュルームの中で。


「きゃー!」
「っの変態!」
「おわぁ!あだっ!」


 ジャックは魔法陣のところまで飛ばされていた。私が投げ飛ばしたんだけど。そこまで飛ぶとは思いもしなかったが、ジャックが悪いんだ、と反省はしないことにした。
 騒ぎに気付いたあの三人はジャックと私を交互に見る。そしてカルラが私に気付くと「メイじゃなーい!」と元気よく声をかけてきた。


「どうしたの?何か困ったことあった?」
「はぁ…はぁ…いや、まぁ…」
「ジャック!とあなたはメイさん?まさか、ジャック、あなたまた…!」
「いやいやいや!ち、違うよー!別に迷惑かけてた訳じゃ」
「トレイさん!この子連れてって!」
「任せてください!ほら、シンクも行きますよ」
「ええー!ちょ、僕まだメイと居たいのにー!」
「あはは〜ジャックん何したの〜?それにしてもぉ、いつからここに居たの〜?」
「あああー!メイー!」


 トレイさんはシンク、て子とジャックを連れてリフレッシュルームから消えた。私は脱力してカウンターの椅子に力なく座る。カルラも何故か隣に座ってきた。


「何があったのよ?話くらいなら聞いてあげるわよ?そうね…3000ギルで」
「高っ!いや…いいよ、」
「つれないわねぇ。0組といいメイといい、財布の紐固すぎよ」
「高すぎなんだって…見直したほうがいいよ」
「あら、そうかしら?」


 溜め息を盛大に吐く。
 全くジャックは何を考えているんだ。ていうか実は変態なんじゃないだろうか。なっにが燃えない?だ、燃えるわけないじゃないか。やっぱり奴は変態だ。かわいく見せようと偽って本性は変態なんだ。
 そんなことを思っていたらカルラが小さく笑った。


「なんかメイ、表情がコロコロ変わるようになったわね」
「……え」
「前はそんなに喜怒哀楽激しくなかったし、淡々としていたけど…今は喜怒哀楽はっきり出てて……、んーそうね人間らしくなったって感じ」
「人間…らしくなった?」


 人間らしくなった?私は意識していなかったが、カルラが言うんだから間違いないだろう。それにしても、私ってそんなに愛想なかった?そうカルラに聞いたら、そりゃもう!9組に入ってからはほとんど無表情で、気味悪かったわよ、と散々なことを言われてしまった。
 ムツキの前ではそんなことなかったと思うけど実際どうなのかわからない。まさかジャックが絡んできたお陰なのだろうか。なんだか認めたくない。


「はぁー…さて、邪魔者は消えたし報告書書きに行くかな」
「ねぇねぇ!彼、メイのコレ?」
「んなわけあるか!」


 カルラが小指を立ててアホなことを言うもんだから、カルラの手をパシッと叩く。手を擦りながら「冗談よ」と笑いながら言った。


「ま、何か困ったことあったら私に言いなさいよ!友達価格でまけてあげるから」
「はいはい、ありがとう。じゃ、またね」
「ばいばーい」


 私はカルラと別れ、エントランスに着く。トレイさんがジャックを連れていってくれたことだし、これで静かに報告書が書けるなぁと安堵し、クリスタリウムに入るのだった。