109




 ナギと一緒にチョコボ牧場へと入る。
 私たちに気付いたヒヨチョコボが小さな羽をパタパタさせて駆け寄ってきた。その姿に癒されていたらヒショウさんが慌てた様子で自分たちに向かって走ってくるのがわかった。


「メイちゃん!」
「おはようございます、ヒショウさん。相変わらずそうで安心しました」
「いやいやお陰様で…って違う違う!」


 違うんだったらどうしたんだろうか。ナギは苦笑してるし私は少しだけ眉を寄せて首を傾げた。


「メイちゃん、大丈夫?!どこも怪我はないか!?」
「え、えぇ。この通り」
「そうか…はぁー…無事で何よりだよ」


 ヒショウさんはホッとした顔をして微笑を浮かべた。そんなヒショウさんに私は申し訳なく思い、心配かけてごめんなさいと謝る。それと同時に、こんなところでも私を心配してくれる人がいることに胸が熱くなった。
 ヒショウさんとはチョコボのことで関わりを持ったが、まだ知り合ってそんなに経っていない私なんかを心配してくれるなんて優しい人だ。


「おい、ヒショウ」
「別に俺は人の女を盗る気はないから安心しろって」
「ヒショウさん、私は誰のモノでもないんですけど」
「だそうだけど、どうなんだよ、ナギ」
「ニヤニヤすんじゃねぇ」


 人の女って私は誰の女になったのか。誰かの女になんかなる気はさらさらないけど。この戦争のいつどこで死ぬかもわからないのに。
 ニヤニヤするヒショウさんに、ナギはニコリと微笑んで腹に一発おみまいしていた。ナイスパンチ、と言いながら踞るヒショウさんを無視して私はニンジャチョコボの小屋へと足を運んだ。


「!うわ、」


 小屋の中を覗き込もうとした瞬間、バッとチョコボの首が目の前に出てきた。紫色が目に飛び込んできてニンジャチョコボだとすぐにわかったが、私の気配を察知して飛び出してきたのか。さすがだなぁ、と目を細めるとニンジャチョコボは撫でて撫でてと言わんばかりに頭を寄せてきた。


「あはは、よしよし」
「クエー」


 気持ち良さそうな鳴き声をするチョコボに自然と頬が緩む。
 チョコボとは白虎に連れ去られたときに離れ離れになったから、会うのは久し振りだった。魔導院に辿り着けたのかと心底心配していたが、本当に無事で何よりだ。


「こいつ、メイちゃんがいなくなってから、いつも心配そうに空見上げてたよ」
「!ヒショウさん…」
「ほんと、メイちゃんが大好きなんだな」


 ヒショウさんは未だお腹を抑えながら、ニンジャチョコボに優しい眼差しで微笑んだのだった。