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 ナギが来たことにより強制的に部屋の中へと戻る。ジャックは今にも文句を言いそうな顔をしていて、ナギは夕食を持っていない方の手で私の腕を掴んでいるジャックの手首にチョップをした。
 「いてっ!」と言ってジャックは腕を離す。


「お前ほんと油断も隙もねぇな」
「…ナギはほんっとタイミング悪いよねぇ、空気読めないって言われない?」
「逆にタイミング良すぎて皆からよく褒められてるぜー」
「…………」


 私を挟んで睨み合う二人に、またかと肩を落とす。
 ナギから夕食を受け取り机の上に置く。積まれている本は一度ベッドへ移し椅子に座ると、スプーンを手に取った。


「お前いつもメイの傍にいるけど、報告書とかちゃんと出してんのかよ」
「だっ、出したもんね!」
「嘘つけ!クラサメ隊長からお前に至急報告書出すように言っとけって言われたんだよ!」
「なっ」
「ちなみに期日は今日の夜までな。わかったらさっさと部屋戻って報告書書け!」


 報告書という言葉に私は口にオムライスを運ぼうとしていたスプーンの手を止めた。
 ヤバい、報告書のことすっかり忘れてた。本を読んでる場合じゃなかった。
 ジャックは顔を真っ青にさせて私に振り返る。私もサァッと血の気が引いていくのがわかった。


「ナギ…」
「ん?…なんだよ、オムライス嫌いだったか?」
「私も報告書、出してなかった…」
「……メイも今から報告書書け。俺が代わりに出しに行ってやるから」
「ぼ、僕のも」
「お前は自分で行け!」


 私は慌てて引き出しから報告書を出し筆を取る。
 ジャックは慌ててはいるが部屋から出たくないようだった。そんなジャックにナギはわざとらしく溜め息をつき、報告書の入っている引き出しを開けて報告書をジャックに渡した。
 ここ私の部屋なのに勝手に引き出し開けやがって。そう言いたかったが今は報告書を書くのに精一杯だった。


「ほら、早く書けよ」
「!」
「メイが書き終わったらお前も一緒に報告書出しに行くからな」


 驚くジャックにナギは筆をジャックに渡す。それを受け取ったジャックは椅子に座り、二人して報告書へと集中させた。

 しばらくして私とジャックは報告書を書き終えることができた。右手が痛い、と私は手のひらを思いっきり伸ばす。
 ナギはお疲れさん、と言いながら私の報告書を手に取り書き疲れたのか机に突っ伏しているジャックの背中を叩いた。


「ん何すんのさぁ!」
「報告書出しに行こうぜ」
「む…」
「ごめん、ナギ…よろしく」
「おうよ」


 ジャックは渋々立ち上がり私にまた来るね、と言いナギの後ろを着いていく。
 部屋から二人を見送った後、冷たくなってしまったオムライスを見て溜め息をつくのだった。