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 ナギが出ていってどれぐらい経ったのだろう。
 ふと部屋の窓へと視線を移す。いつの間にか太陽は沈みかけていて、外には電灯の明かりが点いていた。
 私は本にしおりを挟み自分の部屋の電気を点ける。


「…まだ1日しか経ってない、よね」


 ポツンと出る言葉に少しだけ肩を落とす。いつまで部屋で待機していればいいのだろう。途方に暮れる私は机に積まれている本へと顔を向けた。


「メイー!」
「………」


 部屋の外からジャックの声と扉を叩いているような音が聞こえ、耳を塞ぎたくなった。
 こんな時間に現れるなんて予想外だ。ナギならまだしもジャックが来るなんて。
 私はそのまま寝た振りでもしていようかと考えたが、ジャックに謝らなきゃいけないことを思い出し重い足取りで扉を開ける。扉が開くとジャックは勢いよく転がり込んできた。


「メイ!会いたかったよー!」
「……昨日会ったじゃん」


 抱き着いて来ようとするジャックに私はブリザドを唱えて、手の平をジャックに向けて抱き着くな、と牽制する。もし抱き着いてきたらブリザドの餌食になるぞ。
 それを感じたジャックは苦笑いを浮かべた。


「何の用?悪いけどすぐ帰ってね」
「えぇ!?なんでー!せっかくメイに会えたのに!」
「いろいろと困るんだよ」
「…ぶー…」


 ジャックは不満そうな顔をしているが、夜はいろんなことをしなければならない。いろんなことって言っても寝る準備とかお風呂とかで、大したことではないけど。
 ジャックは椅子に座り、私はベッドに座る。机に積まれている本の量にジャックは顔を歪ませた。


「こんなに読むのー?」
「まぁね。部屋に居たってやることないし、今は部屋から出られないからさ」
「大丈夫!きっとすぐ部屋から出られるよ!」


 ジャックがニコニコして言う。
 何か企んでいるわけでもないその顔に、本当にすぐ部屋から出られるような気がした。ジャックの言うことを信じるわけではないが、少しだけホッとする。


「…ジャックはもう身体は大丈夫?」
「ん?平気平気!マザーにも診てもらったし、調子いいよー!」
「そっか、まぁ見るからに元気そうだもんね」


 はしゃぐジャックに呆れてフッと笑う。
 あの白虎から逃げてきたのにジャックは全くといっていいほど疲れていないようだった。ドクター・アレシアに診てもらったからだろうか。私も帰ってきてすぐ休んだからだいぶ調子は良いが、万全とは言えなかった。
 そんな私にジャックは眉を八の字にさせて顔を覗き込んでくる。


「メイは大丈夫…?」
「え?あぁ、まぁまぁかな。万全とは言えないけど」
「ならマザーに診てもらおう!」
「うわ、ちょっ」


 そう言うなりジャックは私の腕を掴んで扉のほうへと歩き出した。
 いやいや、私部屋での待機命令が出てるんだって!私が慌ててジャックを止めようとするが、ジャックは扉のノブに手をかけ扉を開けてしまう。


「「あ」」
「……何しようとしてんだよ」


 ちょうどナギが私の夕食を持って来てくれたお陰で、出ていこうとするジャックを止めることができました。