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 メイの部屋の前に着く直前、ジャックのCOMMに通信が入りキングの声が聞こえてきた。


「なーにー?」
『定期検診だ。お前の番だからマザーのところに行けよ』
「…わかったぁ、ありがとキングー」


 通信を切るとジャックは手に持っていた本をナギが抱えている本の上に乗せる。
ナギは少しだけ眉間にシワを寄せた。


「ごめん、僕今からマザーのとこに行かなきゃ」
「そっか。わざわざ本、サンキューな」
「いえいえー……あのさ、ナギ」


 シド暗殺容疑がかかっていたこと、メイに話したの?

 そう呟くと、ナギはしばらく間を置いて話してない、と口を開く。それを聞いたジャックはそっかとだけ言うと踵を返して廊下を走り去っていった。
 向かう先はドクター・アレシアのところだ。



「持ってきたぜー」
「あ、ありがとう」


 部屋の扉が開くと目の前が見えなくなるくらいの本を抱えたナギが部屋に入ってきた。
 私はベッドからおりてナギの持っている本の半分を受け取り、机の上に乗せる。それはオリエンスの歴史やら、蒼龍の歴史やら、分厚い本ばかりだった。こんな分厚かったっけと少しだけ面食らう。


「ごめんね、こんなこと頼んで」
「別にいいって。俺にできることあったら何でも言えよ。なんなら着替えだって手伝ってやるし」
「自分のことは自分でできます」


 手を伸ばしてくるナギの手をパシンと叩き落とす。ナギは頭の後ろに両手を組み椅子に座った。
 この本の量なら当分部屋で退屈しなさそうだ。


「…さっき、ジャックに会ったぜ」
「え?あぁ…」


 昨日ジャックから言われた言葉を思い出す。
 また明日、と言われたのに私は議会の命令で部屋から身動きができない。ジャックが私を探し回っている姿が頭の中に浮かび、少しだけ笑ってしまった。
 会ったら謝っておかなければ。


「クリスタリウムで会ったんだけどよ、俺がお前の名前言っただけであいつ血相変えて俺に詰め寄って来たんだぜ?女の子ならまだしも、男になんか詰め寄られたくねぇっつーの」


 口を尖らせて文句を言うナギに私は苦笑しながら、迷惑かけてしまったナギに謝ると謝んなって、と口を開いた。


「そういえば、いつまでここにいるの?」
「あー…んじゃまた夜、飯持ってここに来っから」
「わかった、ありがとね」
「おうよ、んじゃあな」


 ナギは右手をヒラヒラとさせながら部屋から出ていき、部屋の中が静寂に包まれる。しばらく扉を見つめたあと、私は一冊の本を手に取りページを開くのだった。