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ジャックはニコニコと笑いながら私の手を握っている。私は手を振りほどこうと思いっきりブンブンと激しく抵抗を見せたが、あえなく撃沈。全く手を解こうとしない(というかできない)ジャックに私はとうとう諦めるしかなかった。 このニコニコと笑っている顔は、あのいつもの作り笑顔ではないことは確かだ。それだけ好かれているのか、と肩をがっくりとさせる。いや、好かれるのは構わないけど、誰かに好かれるなんて思いもしなかったから自分でも驚いていた。ムツキもまた然り。
「あ、デュースー!」 「え?あ、ジャックさん、と、この方は?」 「僕のこいびっいったあぁ!」 「9組のメイて言います」
ジャックの言いたいことがすぐ把握できたため、ジャックの足を思いっきり踏みつける。その拍子に手も振りほどいてみた。 ジャックは足の痛みに気を抜いたのか、繋がっていた手は呆気なく離れた。 デュースさんはびっくりしてジャックを凝視したが、すぐに私に向き直り、デュースと言います、とご丁寧に返してくれた。0組にこんないい子がいたのかと感心する。
「いったー…ほんと手加減なしなんだからー!」 「ジャックが悪いんでしょ?つーか変なこと広めるんじゃない!」 「えぇー!僕とメイの仲じゃんかぁ、いいじゃん、世間に僕らがこいびっ」
私は笑顔で同じところを再び踏みつける。ジャックは痛みに悶絶し、しゃがみこんだ。デュースさんは私達のやりとりを心配そうに見ている。そんなデュースさんに、私はさっきデュースさんと朱雀の人間ではない誰かがのことを問いかけた。
「ところでさっきあなたと話していた人は誰?朱雀の人ではなさそうだったけど」 「え、あ、蒼龍の方だそうです。院長に用事があるそうで…案内をしていたんです」 「蒼龍…?……そう、ありがとう」
蒼龍の人がわざわざ朱雀まで何を話しに来たのだろう。 あのミリテス皇国の強襲のせいで国々が歪み始めた。玄武は皇国のアルテマ弾により、消滅してしまったし、どうやら何かが起こり始めようとしているらしい。
「眉間に皺なんか寄せてー!」 「いっ!」
ジャックが私の眉間に人差し指でグリグリと押す。その力の強さに、さっきのやり返しだな、と思った。
「やめてって!……ありがとうデュースさん。じゃあまたね」 「い、いえ…」 「あっ!ちょっと待ってよぉ!デュース、またねぇー!」 「は、はぁ…」
その場に残されたデュースは不思議に思うのだった。あのジャックが他人に執着していること、そして、自分達には見せたことのないカオをしていることに。
エントランスに入ると、すかさずジャックが追い掛けてきた。デュースさんとこに居ろよ、と心の中で悪態をつく。
「どこ行くのー?」 「どこでもいいでしょ」 「あっ、報告書書かなきゃだよねぇ?」 「…………」
ジャックはニヤリとして両手を後頭部に回す。なるほど、やっぱりマクタイで私がいるの気付いてたか。じと目でジャックを見て、深く溜め息を吐いた。私も厄介な奴に好かれたものだ。
「あれ?報告書書かないのー?」 「あんたの前で報告書なんか書けるか!それに邪魔されるのがオチだしね」 「まっさかぁ!邪魔なんてしないよー、ただちょーっと見てみたいだけで」 「それを邪魔と言わずに何と言うか!」
ああ、なんかジャックが側にいるといつもより突っ込みが多くなる気がする。心なしか頭が痛くなってきた。
「気晴らしにリフレッシュルームとかどう?」 「……ジャックも来るの?」 「当たり前ー!」 「…はぁ」
ジャックが居たら気晴らしもくそもない気がする。まぁそれくらいいいか。マスターに何か美味しいものでも作ってもらおう。 早く早くーと急かすジャックに、子どもだなぁ、と心の中で思うのだった。
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