100





 鴎歴842年 氷の月28日 午前10時39分

 コンコルディア王国の女王アンドリアがミリテス皇国首都にて暗殺されるという事件が起きた。
 停戦会談中の悲劇に対し王国はオリエンス全土に向けて声明を発表。
朱雀候補生が暗殺に関与したものと断定し、これを激しく批難した。

 鴎歴842年 氷の月30日 午後1時11分

 同月、コンコルディア王国臨時政府はミリテス皇国との同盟を正式に締結。
 これに伴い、蒼龍クリスタルは保護という名目の下、ミリテス皇国の監視下に置かれることとなった。
 これで皇国は三ヵ国のクリスタルを手中に収め自国のものとしたのである。
 そして、ミリテス・コンコルディアの両国は連合としてルブルムへの侵攻を開始しようとしていた。



 ユハンラ地方を後にした飛空艇は何事もなく無事朱雀へと到着した。
 飛空艇から降りようとすると、クラサメ隊長とトンベリが私たちを迎えに来たかのように立っていた。発着所の地へ足を踏み出し、やっと朱雀へ帰ってこれたと実感する。足元にはいつの間に来たのかトンベリが顔を見上げていた。


「ただいま、帰投しました」


 エイトの声に、私は声のしたほうへ目線を向ける。


「報告書はいつものようにだせ。内容によっては審議があるかもしれん」
「それしか言うことないの?こっちがどれだけ大変だったか──」


 クラサメ隊長の言葉にケイトが反論をしようとするが、それをエイトが止めに入る。
 私はトンベリを抱き上げて、クラサメ隊長と0組のやり取りを見守るしかできなかった。あまり首を突っ込みたくはない。


「ひとつ教えてくれ。なぜこちらの連絡に応えなかった?」
「連絡は来ていない。こちらからの連絡も全て不通だった」
「んなわけねぇだろコラ!俺ら全員のCOMMが故障してたってのかアァン?!」


 クラサメ隊長の発言に私はジッと隊長を見つめた。
 COMMが故障していたのではない。あの廃屋のときにエイトが言っていた、誰かが私たちと朱雀への通信を途絶えさせていた。あの視線が誰の視線なのかはわからない、けどそんな気がしてならなかった。


「審議委員会では諸君が故意に連絡しなかったと考えている」
「んなっ?!」
「えぇっ!?」


 審議委員会の答えに思わず声を上げる。見事ナインとハモってしまい、クラサメ隊長と目が合ってしまった。隊長と数秒間見つめあった後、隊長は静かに口を開いた。


「ご苦労だった。指示があるまでは自由にしていて構わん」


 隊長がそう言うとナインがそれにカチンと来たのか、反論しようと身を乗り出す。キングがナインを宥めるように行くぞ、と言った。
 0組はクラサメ隊長のほうを見てから、魔導院へ歩き出した。ジャックだけは私のそばを離れなかった。
クラサメ隊長は私のほうを振り返ると目を細めた。


「…よく、戻ったな」
「ど、どうも…」


 どうして私にはそう言うのか。0組の皆にもそう言えばいいのに、と思ってふとジャックを見るとジャックは驚いた表情をしてクラサメ隊長を凝視していた。


「メイも報告書を出すように」
「はい…」
「…審議委員会はメイを疑っている。あの任務の日から姿を消し、白虎に滞在していたことに不審がっている」
「……そうですか」
「メイまで…」
「また連絡があると思う、それまで自由にしているといい」


 クラサメ隊長はそう言うと私が抱っこしていたトンベリの頭を撫でて、発着所から出ていった。
 ジャックは両手を頭の後ろへ組み、二人でクラサメ隊長の背中を見送った。