97





 目をそっと開けて廃屋にポッカリと穴のあいているところへと視線を向ける。真っ暗だった空は少しだけ明るくなっていて、少しだけ森の中に日差しがさしていた。壁にもたれて寝ていたせいか体があちこち痛い。
 右手を動かそうとするがジャックは手を離さず握っていて、なんか手汗でベトベトしているような気がした。ごめんなさい、とジャックに心の中で謝る。
 ふと左腕に違和感を感じて顔を左側に向けると、そこにはシンクが私の腕に寄りかかって寝ていた。

 え、なんでシンクが?


「メイ起きてたのか」
「!今起きたとこ、なんだけど…これは一体」
「すっかりシンクもメイになついてるな」


 エースがシンクを見てから私に微笑む。美少年に微笑まれるなんて、と私は柄にもなく照れてしまった。いや、照れてる場合じゃない。
 もうそろそろ?とエースに聞いたらあぁ、と返事をする。それなら、と私はシンクに声をかけた。


「シンク、起きて」
「ん〜…?…あぁ〜…メイっち、肩借りちゃってごめんねぇ〜」
「いえいえ」


 シンクはふあーと欠伸をする。目を擦って私の顔をジッと見てきたので、私も見つめかえしてみた。
 暫く見つめ合ったあと、シンクは気の抜けた笑顔をして立ち上がった。


「えへへ〜、なんか照れちゃうなぁ〜」
「え?今照れるとこあった?」
「ほらジャックも起きろ」


 エースは未だ眠りこけているジャックの肩を揺さぶる。私はその光景を黙って見ているとジャックはうぅ、と言いながらゆっくり目を開けた。


「…エース?なにぃ…もう時間ー?」
「あぁ、もう出発する」
「ちぇー」


 そう言うとジャックは私のほうへ顔を向けて、シンクと同じように気の抜けた笑顔でおはよーと言う。
 やっぱりこの二人似てる。そんなことを思いながらおはよ、と返し立ち上がる。ジャックも私につられて立ち上がった。そういえばあれからマキナは戻ってきたのだろうか。


「エース」
「ん?」
「マキナは戻ってきた…?」
「…いや」


 エースは眉間に皺を寄せて俯く。それを見てそっか、と呟きつられるように俯いた。どこまで行っちゃったんだろう。レムさんがいるから戻っては来るんだろうけど…。何かに巻き込まれたのだろうか。
 はぁ、と溜め息をつき廃屋から出るとケイトが私におはよ、と声をかけてきた。私もそれを返すとケイトは首を傾げて口を開いた。


「マキナ、あれから戻ってきてないわけ?」
「皇国の連中に喰われたかな?」


 ケイトの問いにサイスが含み笑いで言う。それを聞きながら焚き火のほうへ目線を向けるとレムさんが丸太に座って森の中を見つめていた。
 マキナを待ってるんだろう。


「発見されてたら皇国軍がここに来てるだろう」


 エースがそう言うと、確かに、とケイトが頷く。戻らなかったら、と思うと同時に隣にいるジャックが私と同じようなことを口にした。


「まぁどっちにしろ、これ以上戻らなかったら置いてくことも考えないとねー」


 ジャックは私のほうをちらっと見る。そう、いつまでもマキナのためにここにいるわけにはいかない。それはレムさんもわかってるだろう。
 レムさんの背中を見つめていると、ザッザッとした足音がする。そっちへ顔を向けるとマキナの姿が目に入った。
 レムさんは立ち上がってマキナを迎え入れた。