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 少し休んだらだいぶ体が軽くなった。私はゆっくり立ち上がると、誰かに服の裾を引っ張られる。


「メイ…?どこ行くのー?」
「どこって見張り代わろうと思って」
「じゃあ僕も一緒に行くー」
「そ、そう」


 眠たそうな目を擦って立ち上がるジャックに、大丈夫かなと顔色を伺う。別に無理しなくていいよ、と言っても大丈夫ーと元気のない声が返ってきた。しょうがないな、と諦めてジャックの腕を引っ張ってセブンとナインのところへと歩いていく。


「お、メイにジャックじゃねぇか、なんか用かオイ」
「2人ともどうしたんだ?」
「いや、休んでばっかじゃ悪いから見張り交代しようと思って」
「僕はメイの付き添いなだけで別に見張りがやりたいわけじゃないからねぇ」


 ジャックの発言に2人ともはぁ?と呆れていた。
 見張りをやるためじゃなく単に私から離れないためだったのか、全く呆れ返ってしまう。ここはジャックにも見張りをやらせるべきだ。


「そんなこと言ってジャックも見張りやりたいんでしょ」
「え!?ちょ、なにいっ」
「なんだそうだったのかよ!はっきりそう言やあいいのによ、なぁに遠回しに言ってんだコラァ」
「ふっ、じゃあ私たちは休むことにするよ。よろしく、メイ、ジャック」
「しっかり見張っとけよコラァ!」


 ナインは単純だからわかってないな、多分。セブンはきっと気付いてるだろう。

 私はナインとセブンに手を振っていると、なんで僕まで、とジャックが納得いかないように不貞腐れていた。私はそれを横目に、森の中へと視線を移す。


「ほら、ジャックもしっかり見張りなさい」
「僕見張りするなんて言ってないじゃん…」
「じゃあエイトと交代ね」
「!……うー…やるよ、やればいいんでしょー!」


 駄々をこねる子どもみたいだ。ジャックは頬を膨らませて私の反対側のほうへ行き、顔をキョロキョロとさせて見張ってますよーとアピールしていた。誰にアピールしてるんだろうか。


「メイさん」
「ん?あ、クイーンさん。どうしたの?」
「い、いえ…ジャックがきちんと見張っているか心配で」


 それを聞いたジャックはクイーンさんに向かって、僕だってやるときはやるんだよー!と訴えかけた。クイーンさんはそれを無視して口を開いた。


「まだ、マキナの姿は見えませんね」


 森のほうへ視線を向けて、はぁ、と溜め息を吐く。クイーンさんはマキナのことが心配で気が気じゃないみたいで険しい表情だった。


「…いくら兄弟であろうと、死んだ者にあそこまで固執するなんて、マキナは変です」


 ポツリと呟くクイーンさんに、黙って耳を傾ける。


「何より、感情的に動けば、仲間も自分も危険にさらすことになります………わたくしの考え方は…冷たすぎると思いますか?」


 消え入りそうな声でクイーンさんは言う。私はその場にいなかったから詳しくはわからない。けれどこれだけは言える。


「冷たくないと思うよ」
「……そうでしょうか」
「一人一人の考え方が違うのは仕方ないよ。皆、それぞれ価値観が違うしさ」
「それは、そうですけど…」
「マキナは自分が何にもできなかったこと、無二の兄弟のことを忘れてしまったことに苛立ってるんだと思う…その矛先を0組に向けるのは良くないけどね」


 そう言うとクイーンさんは顔を俯かせた。
 マキナだって今頃は言い過ぎたって気にしてるんじゃないかな、と言うとクイーンさんが少しだけホッとしたような顔でありがとうございます、と言った。