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 焚き火にあたっていると、誰かの視線を感じた。空から私を見ているようで、空を見上げてみる。
 暗い夜空には星だけが光っているだけだった。


「…気のせい、か」
「ねぇちょっとメイ!聞いてよー!」
「うおっ!?」


 急に腕を引っ張られ体が傾く。
 声の正体はケイトで、もちろん腕を引っ張ってきたのもケイトだった。一体何事、と思って振り返ったらトレイと目が合ってしまった。え、これって巻き込まれた感じか。


「メイはさぁ、初めてなのに強烈に知ってるって感覚、味わったことある?」
「急になに…」
「いいから答えなさい!」
「え、えー…初めてなのに強烈に知ってる…?」


 それって所謂デジャヴのことだろう。うーん、デジャヴ、か。
 腕を組みデジャヴらしき出来事を思い返す。どうしてケイトはまた急にそんなことを言い出したのだろう。


「んー…急にどしたの?」
「いやーなんか最近多いんだよねぇ…トレイも無いわけじゃないらしいけどさ、」
「私はケイトが感じている程ではないのですが、メイは頻繁に既視感を感じますか?」
「うーん…あるようなないようなって感じかな」
「メイもそんな頻繁にはないのか…」


 ケイトは残念、と肩を落とす。
 既視感、つまりデジャヴを感じるのは私もたまにあるけど頻繁に感じるわけではない。トレイに相談するのが間違いだったーとケイトは言うと、傍にいたトレイは明らかにショックを受けていた。


「なーんか、昔まったく同じようなことしたような気がするんだよね」
「そうなんだ」
「ねぇ、アタシっておかしいのかな?」


 真剣な顔をして聞いてくるケイトに、私はなるべく傷付けさせないようにそんなことないよ、私もたまにあるんだから普通だよ、と返す。するとケイトは一気に表情が明るくなり、そうだよね!と元気に答えお礼を言った。
 お礼言われることしてないんだけどな、と思いながらも焚き火のほうへ戻る。
ふとジャックのほうを見ると、膝の上に肘を乗せて頬杖をついていた。心なしか少し眠そうだった。


「うーん…」
「?デュースさん、どうかした?」
「あ、メイさん」


 デュースさんの手の中にはCOMMが握り締められていて、それを見て唸っていたのかと気付くとシンクやエイトもデュースさんの唸り声にどうしたの〜?と近付いてきた。


「COMMに異常はないようなんです」
「んー…レムっちやメイっちとかはまほー使えてるから、朱雀クリスタルにも異常なさそうだし」
「ジャマーに似ているかもな」
「どういうことですか?」


 エイトの発言にデュースさんは身を乗り出した。
 ジャマーみたいなもの、通信を途絶する魔導アーマーなんて皇国は造っているのだろうか。


「いや、確かなことは分からないが何かが干渉して通信が乱れているように感じる」
「一体何がでしょう?」
「さぁな」


 エイトの言った、何かが干渉しているとしたらそれは一体なんなのだろう。
 そういえばさっき私が感じた視線のようなものは何だったのか。もしかしたらソレがCOMMの通信を邪魔している?そうだとしても一体何のために。


「…駄目だ、パンクしそ」
「大丈夫か?」
「あ、いや大丈夫」
「無理なさらないでくださいね」
「そうだよぉ〜、休めるときに休まなきゃ〜」
「…そうだね」


 心配ばっかかけさせるのも悪いからここは甘えて大人しくしておく。少し休んだら見張りの交代でも言いに行こう。