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「メイ!」


 ジャックが私の名前を呼んで背中に抱き着く。抱き着いてきた拍子に身体が前のめりになり、前屈している状態となった。そんな状態の私に驚いたのかジャックは抱き着くのをやめて顔を覗き込んできた。


「だだ大丈夫!?」
「あぁ…まぁ」


 いつもだったら何すんのとか突っ込むとこだけど、今はそんな体力がない。それに頭もまだ痛くて突っ込むのも億劫だった。
 私はありがとう、と手に持っている上着をジャックに差し出した。


「どういたしまして!」
「ところでさ…ここ、どこ?」
「私はだれー?」
「……ジャックじゃん」
「そう来たかっ!もーいつものように突っ込んでよー!」
「いやそんな元気ないし…」


 ここはどこ、私はだれ、とでも言ってほしかったのか、それとも突っ込んでほしかったのかよくわからない。元気がない、と言ったせいかジャックは眉を八の字にさせて大丈夫?と声をかける。大丈夫だよ、と言うと本当?と言うので再び大丈夫だと言うとまた本当に?と返ってきた。


「ほんとのほんとのほんっとーに大丈夫?」
「大丈夫だって!てかしつこいから!」


 ジャックとのやり取りにふとナギの顔が浮かび上がった。あの人も本当にしつこい。あー魔導院に帰ったらなんか言われそうだ。只でさえこんな状況だもんな。て、呑気なこと考えてる場合か。


「それよりも本当にここ、どこなの?」
「あぁそうそう」


 それからジャックに今までの経緯を簡単に教えてもらった。
 蒼龍のホシヒメ、そして蒼龍王のこと。蒼龍王のことといい、ホシヒメのことといい、わからないことだらけだ。まぁでもホシヒメという人が助けてくれたことには感謝するべきだろう。


「こんなもんかなぁ」
「…そっか、あ、私のこと運んでくれてありがとね」
「いえいえ、んーじゃあお礼はチュウで」
「今度ご飯でも奢るね」
「…ちぇー」


 誰がするか、誰が。そう心の中で突っ込む。ジャックには確かに運んでくれた恩があるけど、恋人でもなんでもないのだからチュウなんてできるわけない。


「あ、ねぇそういえばさぁ、メイっていつから首飾りなんてしてたの?」
「え、いつからって…な、なんで?」
「んー、ホシヒメって人がさぁ、その首飾り見て涙流してたんだよねぇ」
「!」


 そういえばホシヒメってアンドリア女王の側に居た武官のことではないか。この首飾りを見て涙を流すということは、少しだけアンドリア女王を思い出したからなのか。


「あれ、?」
「?」


 アンドリア女王って?それってもしかして蒼龍女王のこと?

 まただ、またコハルのときと同じ亡くなった人の名前が頭の中に浮かんできた。どうして思い出したかのように浮かび上がってくるんだろう。
 ジャックにどうかしたの、と聞かれて我に返る。


「…もう大丈夫だから、外行こう?」
「あんまり無理しちゃだめだよー」
「だから大丈夫だって。なんかジャックってナギに似てきたなぁ」
「えっ」


 そう言うとジャックは一気に表情を変えた。ナギと一緒にしないでほしいなぁー、と頬を膨らますジャックに一緒にしてないよ、と言い私とジャックは廃屋から出るのだった。