91




 気付いたら周りは真っ赤に染まっていた。目の前には魔導院と似たような噴水が、真っ赤な液体を垂れ流していてそれが血なのかは見た目ではわからない。ただ凄く薄気味悪かった。
 噴水の他に何かあるかと顔を右に向けると、やっぱり魔導院と似たような道が広がっていた。いやこれは似ているんじゃない、魔導院そのものだ。


(!?何、これ…)


 魔導院ならば右の道は飛空艇乗り場になる。しかし飛空艇乗り場へ続く道は塞がれていて、その道なりには候補生や朱雀軍の人たちが血を流して倒れていた。
 自分の味方が倒れているというのに、足に力を入れようにも身体は固まったように動かなかった。顔だけは動かせるのか、次は顔を左に向ける。
 飛空艇の道と同じように闘技場への道は塞がれていたが、今度は人間が二人立っていて私は目を見開いた。
 一人は武器を持ち一人はその人の後ろに身を隠している。二人は何かに襲われている最中だった。


「私はいいからあなただけでも逃げて…!」
「いやだ!  は僕が死んでも守る!」


 候補生だというのは服装でわかった。少年と少女の候補生で、一体誰なのか、と顔を見ようと目線を移すが何故か霞んで見えない。
 喋りかけようと口を開くが自分の声は出なかった。どうやら声も出せないらしい。
 自然と目線が二人に釘付けになった。


「ゔあ゙あ゙っ!」
「!」


 それは一瞬の出来事だった。
 少年は何かに斬られ、地面に倒れる。ドクドクと色々なところから血が流れ続け、止まることのない血の量にこのままじゃ助からないだろうと私はそれを黙って見守る。
 こんな状態でよく落ち着いていられるものだ。これもクリムゾンの任務をこなしていたからだろうか。
 倒れた少年に少女は、少年の名前を叫んでいるように口を開いていた。何故か名前だと思う部分だけは聞こえなかった。
 血だらけになっている少年が目をうっすらと開けて息遣いを荒くしながら口を動かした。


「        」


 それを聞いた少女は目を見開く。
 私には少年が何を言ったのかわからなかった。少年は少女に何を言ったのだろうか。


「…っ!?」


 不意に頭の中がキンと響き激痛が走る。この感じはヴァジュラの時と同じだ。段々と瞼が重くなる。
 まだあの二人のことを見ていたいのに、そんな思いとは裏腹に身体は重くなり息が苦しくなる。少女は倒れている少年の前に出ていくのを最後に、私の視界は真っ白になった。





「………?」


 ゆっくり瞼を開けると見覚えのない天井が目に入る。頭の中がズキズキと痛むのを堪えて、上半身を起こした。


「……痛いな…」


 いやそれよりもここは何処なのだろう。見たところ廃屋っぽい。
 右手を額に当てて俯くと私の膝には候補生特有の上着がかけられていた。その上着を手にとりホッと安堵の息を吐く。


「…どこだろ、ここ」


 そういえばヴァジュラの攻撃のときに気を失って、それからどうなったのだろう。倒れる直前ジャックの匂いがしたから、ジャックに受け止められたのはわかるけど。
 頭痛に我慢しながらも立ち上がろうとすると後ろからギィ、と木の軋む音が聞こえた。