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 地下へ逃げ込んでも休む暇はない。
 0722地区へと入ると前から列車がやってきた。


「なんだ…!?」
「いたぞ!女王暗殺犯だ!」
「司令部へ通達、0722地区にて目標を捕捉しました」
「情報を確認。ただちに始末せよ」


 そう言うと皇国兵が私たちに襲いかかってくる。
 今皇国兵はなんと言った?女王暗殺犯?誰が?私たちが?そんな馬鹿な…。
 皇国兵を一通り倒し一体どういうことなのか混乱していると、視線の先に皇国兵が誰かと通信を行っているのに気付いた。
 0組は息を潜めて、その会話を盗み聞きする。


「目標、いまだ捕捉できません」
『見失ったで済む問題ではない!奴らは蒼龍女王を暗殺した疑いがある!必ず見つけろ!』
「はっ!」


 蒼龍女王が暗殺された。
 その事実が私の心に突き刺さる。蒼龍女王の姿を思い出そうと記憶を辿ってみたが、顔は思い出せなかった。でも、私は昔蒼龍女王に助けられたことは覚えている。
 あとは……。


「蒼龍女王を暗殺だって?!」
「そんな……」


 マキナの声で我に返る。
 ふと首元に手を持っていくと何か違和感があった。その違和感はきっと、蒼龍女王からもらった首飾り。
 心に何かが刺さったかのように痛くなる。


「ダメです。朱雀と連絡がつきません!」
「まさか……」
「まさか院長たちも……朱雀は大丈夫なの?!」


 私は首元から静かに手を下ろす。今この状況で混乱するのも無理はない気がした。
 朱雀と連絡がつかない。繋がらない理由がどうであれ、私たちは自力でここから脱出しなければならなくなった。
 院長たちは記憶がなくなっていないから今はまだ大丈夫だろう。


「俺は院長のことを覚えている。それにクラサメもついてた」
「そうだねぇ〜。クラサメのことも院長のことも覚えてるってことは、まだ生きてるってことだし無事だってことだよねぇ〜」
「まだ無事、という方が正しいかもしれませんがね」


 トレイの言う通りだ。
 覚えてるってことは生きてるってことだけど、この状況はきっと院長たちも同じで、殺られるのも時間の問題。それよりも朱雀からの連絡がないのが気掛かりだ。
 しかし頭の中でいくら考えても答えは出てこない。


「でも……ならなんで返事がないの?どうして私たちが疑われているの?」
「クリスタルのせいで殺したことを覚えてないだけかもよー」
「でもそれなら【誰か】を暗殺したってことは覚えてるはずだよ」


 そう、誰かを殺したという事実は忘れない。
 私たちは蒼龍女王と会ったことはあるけど、暗殺だなんてそんなことをするはずがない。けど私たちが蒼龍女王と会ったという過去があったことで、皇国の人や蒼龍の人には私たちが女王を暗殺したと思うだろう。
 そしてこの状況に陥った。いやこれは元からつくられていたとも考えられる。


「えぇ、その通りです。そもそもみなさんもそうだと思うのですが、コンコルディアの女王と私たちが会ったという事柄は覚えているはずです。しかし、彼女のことは覚えていない。つまり彼女が死んだのは事実なのでしょう。そして他の人々の記憶もそれと同じなら、私たちが会っていたという事柄。それが私たちに暗殺容疑をかけられた、状況の後押しになったとも考えられます」


 トレイの発言に私たちは黙り、クイーンさんが顎に手を当てて口を開いた。


「……もう1つ、これはあくまで仮説ですが最初から、つまり暗殺が起こる前から【犯人】はわたくしたちだと決められていたのかもしれません」
「なっ!?ふざけるな!わたくしたちってなんだよ!オレは、オレとレムは関係ない!」
「なんで?!なんでそんなことになるの?!」


 マキナが過剰に反応する。
 私はそれを見て、あの事で0組と自分を一緒にしないで欲しいんだと悟る。マキナの気持ちはわからないでもないが、今はマキナもレムさんも0組の一員だ。疑われても仕方ない。


「では、捕縛しに来た皇国兵が迷わずあの部屋に来た理由は?」
「そういえば……すぐに帰還しないで任地で休暇なんておかしいのかも」
「それにわたくしは諜報四課らしい人間も見ています」
「四課だって?!そんな、まさか……朱雀はオレたちまで犠牲に…?」


 諜報四課、それは私も気配ですぐにわかった。
 でも今回は諜報四課は関係ないと思う。だって朱雀が女王を殺すメリットがないからだ。
 それよりもホテル前で見た皇国兵と蒼龍の人のやりとりが気になる。


「マキナ……もうやめよ。今はいくら考えても答えが出ないもの」
「どちらにせよ、今捕まるのは得策じゃないな。まずはここから脱出しよう」


 エイトがそう言うと皆は頷き、歩き出す。マキナの後ろ姿を見て私は複雑な気持ちを抱くのだった。