──水の月(2月)21日


 この日、魔導院近郊の町「マクタイ」を奪還する作戦が実行された。
 私は上層部の命令で0組の能力を偵察してこいと言われたため、仕方なくマクタイへ出向いていた。
 0組の子達はこちらが驚くほど次々に皇国兵を倒していく。さすが朱雀を救っただけあるなぁ、と感心するほどだった。それにしても、0組の子達は特殊な武器を用いている。特にカード、鞭、大鎌、メイスなど誰も装備しないような武器を所持している。
 一人一人の武器が異なり一人一人がその武器を生かし使っている様子から、前々から訓練でもされていたのだろう。
 物陰からじっと見詰めていると、金髪頭で(ていうか金髪頭多い)いかつい顔をした男の子がいきなり振り返った。


「?キング、どうかしたのか?」
「………いや、」


 気配を消している筈なのにわかったのだろうか。何をしても0組は優秀ということか。まぁ私の気配に気付いてる人、4、5人はいるだろう。その中にジャックも含まれているのが少々悔しい。
 程なくして、0組の子達は呆気なく皇国軍からマクタイを奪還することに成功した。

 魔導院に帰ると0組の話題で溢れかえっていた。あの幻と言われていた0組が早速マクタイ奪還作戦に参加し、見事成功したのだから当然と言えば当然だろう。
 私は正面ゲートから噴水広場への扉を開けようとすると、エンラが片手を上げて近付いてくる。無駄にいい声をしているエンラは、何だかニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
 そんなエンラとはナギ経由で知り合った間柄だ。


「聞いてくれよ!」
「…いきなりなに?」
「恋ってやつぁ、突然なんだな…!俺、こんな時代で恋なんてするわけねぇと思ってたが…いいよな、恋…ておい!聞けよ!」
「はいはい、恋できてよかったねーじゃあまたね」
「あーあ、お前は良いよなあ。ナギと両想いだもんな」
「……は?今なんて?」
「お前ら両想いでいいよな」
「いやいやいやちょっと待って、私がいつナギと両想いに…てか私ナギのこと好きじゃないし!」
「そうだよー!メイは僕と両想いだもん、ね!」
「出たー!」


 ナギといいジャックといい、神出鬼没すぎやしないだろうか。心臓に悪いったらない。もしかしたらいつか心臓が止まるかもしれない。


「0組…?え、何こいつのことが好きなのお前」
「こいつじゃなくて、ジャックって名前あるんだけどー。メイは僕のこと好きだよねー?」
「勘違いも甚だしいわ!私はナギもジャックも好きじゃないし、好きな人すらも居ませんから!ていうかいきなり現れないで!」
「えへへー」
「照れるとこ違うから!」
「お前ら仲良いな…俺もレムちゃんと話してぇなぁ…よし。ちょっと行ってくるわ!話聞いてくれてありがとな!じゃあな」


 そう言うとエンラは光の速さで正面ゲートから出ていった。残された私とジャックの間に沈黙が流れる。あぁ、そういえば早く報告書書かなければ。


「じゃあ私も行くわ、またね……」
「やだー」


 腕を掴まれてしまい動けない。意外と力があることに少しだけ驚いた。
 私はジャックから逃れようと必死に抵抗するが、全く動じず。結局項垂れるしかなかったのだった。


(あ、そうそう。メイ!)
(…なに…)
(おかえり!)
(!………、ジャックも、おかえり)
(へへーただいまぁ!)