「ちょ、ちょっと、ジャック!」
「………」


どうしよう。超えてはいけない線を超えてしまった。なるべく我慢していたのに。あの候補生があんなこと質問するから咄嗟にやってしまった。
自己嫌悪が容赦なく襲いかかってくる。手は繋がれたまま、ナマエはそれを振り払おうとすればできるはずなのになぜかしない。大人しく着いてくる始末だ。どうして拒絶しないのか。
もしあの質問を聞いて、ナマエが恋人なんていないと答えていたらと思うと、怖くて仕方がなかった。だからといって、やっていいことと悪いことくらい僕でもわかっていたはずなのに。あぁ、ほんとにどうしてあの時あんなことをしてしまったのだろうか。


「ジャック…?」
「…!」


ナマエの声でハッと我にかえる。いつの間に自室に戻ったのか、部屋の中で呆然と立ち尽くしていた。ナマエが心配そうな顔をして僕の顔を覗き込んでいる。


「おーい…?大丈夫?」
「あ、ナマエ…」
「ん?」
「ご、ごめんっ」


ナマエの顔を見てすぐに頭を下げる。ただの幼なじみなのに、キスなんてしてしまった。まだ告白もしていないのに、段階を間違えてしまった。いやむしろナマエは嫌だったかもしれない。
とにかく謝らなければ。今の僕にはそれしか思い浮かばなかった。


「ほんっとにごめん…」
「え、や、ちょ、頭上げて…」
「嫌、だったよね…」
「え…」
「……あの、さ、ナマエ」


だめだ、もう。ここまできたら言うしかない。やってしまったのは仕方ないし、追い追い言う予定だった。ちょっと予定が早くなったけれど、今が言うタイミングだと思う。
覚悟を決めた僕は顔を上げて、ナマエをじっと見つめる。ナマエは戸惑っているのか、どうすればいいのかわからない様子だった。僕は繋がれていない片方の手もナマエの手を握る。


「僕、小さい頃からずっとナマエのことが好きだった」
「!」
「ナマエは僕のこと、ただの幼なじみかもしれない。けど、僕にとってナマエは幼なじみ以上の存在で、一番大切なひとなんだ」


初めて自分の想いをぶつける。言いたくてもずっと言えなかった。言ってしまったら幼なじみという関係が壊れてしまいそうで、ずっと言えずにいた。
でももうキスをしてしまった以上、気持ちを隠し続けるわけにはいかない。今回ばかりは腹をくくるしかなかった。


「えと、急にごめん、ほんと、あれは無意識だったっていうか…」
「………」
「…ナマエ?」
「あ、う、うん…」


ナマエの反応がないことに不安を感じながら、ナマエの顔をうかがう。


「!」
「や、ちょ、今だめ…」


僕から逃げるようにナマエは顔をそむける。その反応に、自分の中のサディズムが疼き出す。だめだ、そんなことしたらナマエにもっと嫌われてしまう。いやでも今のナマエの反応、なんかちょっと気になる。もちろんいい意味で、だ。
手で顔を隠そうとするナマエに対して、僕はそうはさせまいと手首を掴む。後退りするナマエを追い込み、そのまま顔が見えるように手首を壁に押し付けた。


「あ……」
「……み、見ないで…」


露わとなったナマエの顔は、弁解の余地もないほど真っ赤に染まっていた。これってもしかして、僕の勘違いじゃなかったら――。


「…ねぇ、ナマエ」
「………」
「なんで、そんなに顔赤くなってるの?」
「うっ…」


ナマエの顔が見えるように、少しだけ体を屈ませる。顔を真っ赤にさせたナマエがよく見える。ナマエはなおも抵抗しようと顔を俯かせるけれど、それは全く意味がなかった。むしろ煽っているようにも見える。


「ナマエ、ねぇ」
「な、なにっ」
「ナマエは僕のことどう思うの?」
「えぇっ、え、その…」
「ねぇ、言わなきゃわかんないよ」
「あぅ、……う、わた、私も」
「うん」
「私も……好き、幼なじみとしてじゃなくて、です…」


耳まで真っ赤にさせて蚊の鳴くような声で言うナマエが可愛くて仕方なくなった僕は、そのままナマエを抱き締めた。柔らかい、温かい、ナマエの匂いがする。あぁ、もう我慢できない。


「ナマエ」
「ん、ん?」
「もっかいキスしていい?」
「えっ、う、うん」


そっと体を離してナマエの顔を見る。少しだけ潤んでいる瞳と赤みがかかってる頬を見て、ほんとのほんとに我慢ができず、噛み付くようにキスをした。


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