幼なじみといっても、ナマエのことを全部知っているわけではない。例えば、ナマエのことを狙っている男のこととか。


「おいジャック」
「ん?あれ、ナインじゃん。どしたの?」
「お前ナマエの幼なじみだっけか」
「えっ…うん、そうだけど、それがどうかしたの?」
「なんかうちのクラスの男子がよぉ、ナマエのことがどうたらっつってるやつがいたんだけど」
「へぇー、それ誰?教えて」


僕のナマエに手を出そうとする輩は、誰だろうと許さない。たとえそれが僕の友人でもだ。
ナインから聞き出した情報を頼りに、僕はその男子候補生を探す。そしてその男子候補生はあっけなく見つかった。見る感じ普通の男子候補生だ。
僕は笑顔を貼り付けてその男子候補生に近付いた。


「どうもー、ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」
「ん?あぁ、いいぜ。なんだ?」
「キミナマエって子知ってる?」
「えっ、あ、あー…まぁな」


歯切れの悪い返事とその男子候補生の態度を観察する。男子候補生は少しだけ頬を赤らめて、居心地悪そうに頭を掻いた。その男子候補生の近くにいた他の候補生が、男子候補生のことを肘でつつきながらにやにやと笑みを浮かべる。


「ナマエちゃんが気になるんなら話しかけに行けばいいじゃねぇか」
「うるせーな」
「全く恥ずかしがり屋だなぁお前」
「へぇー、キミナマエって子のこと気になるんだ?」
「お、お前には関係ないだろ」
「それがさぁ、大いに関係あるんだよねぇ」
「は?」


眉間に皺を寄せる男子候補生に、僕はにっこりと笑みを浮かべた。


「残念だけどナマエにはもう男いるよ」
「…なんでんなこと知ってんだよ」
「その男が僕だから」
「はあ?」


男子候補生は意味がわからないというような顔をする。そりゃあそうだろう。ほぼ初対面の男子に好きな子には男がいると言われて、はいそうですか、となるはずがない。しかも男がいる、と言われてその男が自分だと言い張るのだから、意味がわからないという顔になっても仕方ないだろう。
だが、ここは引くわけにはいかないのだ。いつもこうやって、ナマエを悪い虫から守ってきたのだから。


「お前、ナマエちゃんのなんなんだ?それに男かどうかは本人に聞いてみなきゃわかんねぇだろ」
「僕はナマエの幼なじみ兼恋人だよ」
「恋人?そんなの聞いたことねぇし」


まぁ確かにナマエの幼なじみであっても、恋人ではない。ナマエにとって僕はただの幼なじみで、ナマエの恋人になりたいっていうのはほとんど僕の独りよがりだ。そうなりたい、と思っていてもやっぱりどこか怯えてる自分がいる。もし、ナマエが僕以外の人と一緒になったら。そう考えるだけで、僕は僕でなくなりそうだった。


「あ、ジャックだー」
「!ナマエ!」
「どうしたの?珍しいね、2組の人と一緒なんて」


なんて間の悪い時に来たんだろう。ナマエは小首を傾げながら、僕とその男子候補生を交互に見やった。男子候補生は恥ずかしそうに「こ、こんにちは」と口にする。それに対してナマエも「こんにちは」と挨拶をした。
あぁもう、そうやって愛想よくしなくていいのに。


「な、なぁ、ナマエちゃん」
「ん?」
「ナマエちゃんに今恋人って――」


男子候補生のその言葉に、僕は思わずナマエの手をつかんで引き寄せる。ナマエは目を見開かせて、そして半開きの唇に自分のを押し当てた。


「!?」
「なっ!?」
「…こういうことだから」


勝ち誇った笑みを男子候補生に見せつける。男子候補生は唖然としていて、僕は呆然とするナマエの手を引いて歩き出した。


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