「大変だああああああっ!」
翌日の学校、朝っぱらからウソップのバカでかい叫び声が教室に響いた。
俺は机に突っ伏していた顔を上げ、訝しげにウソップを見た。
「うっせェなァ!んだよ」
「おォ!ゾロ!大変なんだよ!」
「だから何が!」
「いいか、よーく聞けよ」
ずいっとウソップは鼻がぶつかるほど(ウソップの場合は人の5倍はあるけどな)顔を近づけてきた。
俺は、早く言えよ、と若干(いや、多分かなり)イラつきながら続きを促した。
「ルフィが女と登校してたんだ」
「はあ!?ウソだろ!てめェ!」
一つ言う。今のは俺が喋ったんじゃねェ。
俺に鼻が曲がるほど顔を近づけていたウソップの胸ぐらを掴む、金髪野郎。
つーかなんでコイツがここに。
「ウソだろ!おい!あんなクソ野郎が女と登校だあ!?」
「う、ウソじゃねェ!俺ァ見たんだ!」
「何かの間違いだ!」
金髪野郎はグラグラとウソップの体を揺らす。
ウソップは苦しそうに顔を青くしながら成すがままになっていた。
「だいたいアイツは女に興味なんざねェんだよ」
「そうなのか?」
「あァ!だから見間違いだ!」
「つーかお前、なんでそんなルフィのこと解りきったような言い方なんだよ」
「それは、」
金髪野郎はゴニョゴニョ口を動かすが、一向に言葉を紡ぎだそうとはしなかった。
俺とウソップは顔を見合わせ首を捻った。
「ちょっとした‥腐れ縁だ」
「腐れ縁?」
やっと紡ぎだした言葉がそれだった。
「お前もルフィと幼なじみか何かなのか?」
「いや、学校は違う。けど中学んときから顔馴染みだ」
「へー」
詳しい理由を言おうとしないが大して気にならなかったから、それ以上探りはしなかった。
そういえば、と昨日の夜のことが蘇ってきた。
「素敵眉毛、お前姉貴「サンジくーん」
「んナミさーんっ!!!」
瞬間、目をハートにぐるぐる回り始めた素敵眉毛に、すっかり俺の言葉は掻き消されちまった。
いや、聞くまでもねェな。こんな目をハートにだらしなく笑うエロ魔神みてェな奴、ナマエと似ても似つかねェ。姉弟な訳があるか。
俺は自己解決をして、その事自体頭の中から消去した。
「どうしたんだい!ナミさん!」
「今日英語の授業当たるからノート見せて欲しいなーって」
「お安い御用さ!お礼はナミさんの熱い「あ、ルフィってまだなの?」
「え、あ、あァ」
「そうだナミ!ルフィの奴女と登校してたんだ!しかも超絶美人!」
「んだと長鼻ァ!?超絶美人なんて聞いてねェぞ!」
そしてまた数分前の光景に戻った。グラグラと揺さぶられるウソップに詰め寄る素敵眉毛。
はあ、と溜め息をついたところでナミが口を開いた。
「それってハンコック先輩じゃない?」
「あ、ハンコック先輩か。そりゃ超絶美人なはずだ」
「ナミ知ってんのか!?サンジも!」
「えぇ、2年でエースの友達のハンコック先輩。あ、エースはルフィのお兄さんなんだけどね」
「知ってんぞ!昨日知り合った」
「あら、そうなの?」
「ま、ハンコック先輩とルフィならできてる訳じゃねェな」
「そうなのか?でも腕組んでたぞ」
「それはね「何の話だー?」
ウソップとナミ、素敵眉毛の掛け合いに、どこから湧いて出てきたのかルフィがひょっこり顔を出した。
思わず成り行きを見ていた俺も突然のことで目を剥いた。
「ルフィどこから」
「さっき着いたんだ。お前ら盛り上がってっから全然気づいてなかったぞ」
「あー悪ぃ悪ぃ」
「ルフィ、ハンコック先輩って誰だよ?」
「ハンコック?ハンコックは」
キーンコーンカーンコーン
「やだ!予鈴鳴っちゃったじゃない!サンジくんノート!」
「はーいナミすわーん!」
じゃ!また来るわね!、とナミが出て行く後に続いて、くるくる回りながら素敵眉毛も出て行った。
嵐が去ったような静けさが一瞬、俺たちの周りに漂っていた。
「あ、それでハンコック先輩って何なんだ?」
「ハンコックはエースの友達で、ナマエの親友だ」
「お前とはどういう関係なんだよ」
「ハンコックと俺は友達だ」
「友達となんで腕組んでたんだ?」
「知らねェよ。ハンコックが組んできたんだから」
「んん?どういうことだ?」
首を捻るウソップを横目に、俺は“ナマエの親友”というハンコックという女に興味が湧いていた。
ナマエのことを(恐らく)この学校で一番良く知っているであろう女。
そこで俺は疑問に思った。
どうして俺はこんなにナマエについて知りたがっているんだ。
「よしわかった!今日の昼休みエースんとこに行こう!」
「行ってどうすんだ?」
「ハンコック先輩とやらを紹介しろ」
「えー、めんどくせェよ」
「んだとー!」
キーンコーンカーンコーン
「お前ら席つけー」
俺はその謎が解ける前に、その思考を遮断した。
「あ!ゾロもう寝てやがる」
「ずりィぞ!」
‐ ‐ ‐ ‐ ‐
教室(ルフィのクラスの隣の隣)に戻る途中、私はサンジくんに気になっていたことを聞いてみた。
「サンジくんもハンコック先輩を知ってたなんて知らなかったわ」
「あー‥姉貴の親友なんだよ。よく家に来るんだ」
「え?親友ってことはナマエ先輩?お姉さんだったの?」
「まァな」
「知らなかったー。私情報通だったのに」
「似てねェから誰も気づかねェし、俺も言わねェからな」
「確かに似てないわね」
サンジくんとナマエ先輩が姉弟だったなんて。だからルフィとも知り合いな訳ね。
「ま、この学校一の美女と謳われるレディを俺が知らない訳がない!ナミさんもこの学年一って噂だぜ!」
「それはどうもありがとう」
「んー!素敵すぎる!まるで天使のようだ」
「あーはいはい」
誰も気づきはしないわね、こんな変態とあんな女の子の模範みたいな先輩が姉弟だなんて。
絡まり絡まる糸
(謎解きはまだ振り出し)