心を埋める君の存在


 
こんな夜は飲みたくなる。


「なんもねェじゃねェか」


親父の酒を拝借したはいいが肴がねェ。酒だけっつー訳にはいかねェしな。

仕方なく財布と携帯をジャージのポケットに入れて家を出た。

徒歩2分のところにあるコンビニ。結構な夜中で人はまばらだ。

つまみ売り場を物色して、それからスナック菓子のコーナーを見る。

適当に選んでレジへ向かう、と誰かがちょうど会計をしているところだった。ピンクの長い髪が特徴的だった。

その後ろに並んで、数分。やけに長い。しかもさっきから、ピッ、ピッ、と商品をレジ打つ音ばかりで一向に会計へと進まない。

気になって覗いて見れば、異常な量の食いモン、食いモン、食いモン。

これ、この女一人で食う訳じゃねェよな?


「6380円です」


やっと会計まで進んだ。にしてもコンビニで、しかも食いモンだけでこんなに買う奴初めて見た。

袋詰めする店員もまた一苦労で、時間がかかる。

正直、迷惑な客だよな(コンビニ側としては利益があんだから良いだろうけどな)。


「ありがとうございましたー」


深々と頭を下げる店員は少し疲れている。

女はお構い無しにデカイ袋5つ提げて店を出て行った。


「お待たせしてすみません」

「あ、いや」


なんて良い店員なんだ。思わず俺は「頑張ってください」と言いかけてしまった。


「1230円です」


1500円渡して釣りをもらい、「ありがとうございましたー」という店員の声を聞きながらコンビニを出た。


「でさー、キッドの奴マジうぜーの」

「キッド良い子じゃない」

「あァ!?ナマエはキッドの本性知らねェんだ!」

「そうなの?‥あ、」


コンビニを出た直後、先程までのピンク髪女がコンビニの前にしゃがんで(ヤンキーだな)、買ったばかりであろうポテチを頬張っていた。

その横、同じようにしゃがんで(こっちは上品だ)笑う、ナマエの姿があった。いつもの制服ではなく、ジャージのズボンにTシャツだ。化粧はしてあってスッピンではない。

すぐに、目が合った。


「ゾロくんだ」

「お、おう」

「何?ナマエの知り合いか?」

「後輩なの」

「へぇ‥うちボニーってんだ。ナマエとは中学の同級生なんだ」

「俺はゾロだ」


なんとなく気まずかった。あんなの(エースと一緒に帰るところ)見た後だからか?いや、二人が一緒に帰ってたからなんだって言うんだ。

訳もなく戸惑っている俺とは裏腹にナマエはちょいちょい、と手招きをする。


「ゾロくんも座りなよ」

「や、」

「おう!一緒に飲もうぜ!」


ボニーに腕を引かれ、強制的に二人の前に座らされた。

ボニーは新しくじゃがりこの封を開け、酎ハイを飲んだ。


「ゾロくん、家この辺なの?」

「あァ」

「じゃあ意外と近所だね。中学どこ?」

「第二中だ」

「あー残念、あたし第一中だ」

「この辺で校区別れるからな」

「そうなんだ。じゃああたしがもうちょっとこっちだったらゾロくんと同じ中学だったね」

「あ、あァ」

「ナマエ!そりゃ駄目だ!あたしと中学変わっちまう」

「ふふ、わかってるわよ」


まただ。心臓が早くなる。

やっぱり病気なのか?


「てかナマエが夜中に一人で出掛けるなんて珍しいね」

「パパにお使い頼まれたの」

「それで例のシスコンの弟がよくそれ許したね」

「ホントは一緒に来るって言ったんだけどね、パパに捕まっちゃったの。二人で明日の仕込みしてたわ」

「へぇ‥彼氏は怒んねェの?あの超束縛野郎のことだ、一人で外出なんざ許さねェだろ」

「内緒よ内緒。もう寝たことにしてあるの」


悪戯にペロッと舌を出してナマエは笑った。ボニーも「そりゃ傑作だ!」とシュークリームを頬張りながら笑った。

やっぱりだ。彼氏が居る。それはあのエースで、間違いないんだろうな。

弟がいるっつーのも意外だったけどな。


「ナマエん家、レストランなんだぜ」

「レストラン?」

「パパと弟でやってるの。バラティエっていうんだけどね、あたしもたまに手伝ったりするからよかったら来て」

「すんげェうまいんだそ!バラティエの飯は」

「ナマエの飯もうめェんだろ?ルフィが言ってた」

「パパや弟に比べたらまだまだよ」


ふふ、と柔らかく笑った。


「あ、そういえば弟も同じ高校よ。何組だったかしら?」

「そうなのか?」

「そ、金髪の」


そこまで言って、ナマエは言葉を止めた。ナマエの携帯が鳴ったんだ。


「わわ!ごめんね!パパから電話だ!」


もしもし、と電話に出ながら少し俺たちから離れた。

ボニーはまた新しいスナック菓子の袋を開けていた。

“金髪の”、思わずその言葉に浮かんだのはあの“素敵眉毛”だった。


「(まさか、な)」


俺はその考えを頭を振ることで打ち消した。

まず、全く似ていない。


「ナマエさー」

「なんだ」

「よく笑うようになったな」

「は?」

「あんなに笑うナマエ久しぶりに見た」

「‥」

「中学んときさ、」

「ボニー!ゾロくん!」


ナマエの声がして、ボニーは言葉を濁した。


「パパに早く帰れって言われたから帰るね!ごめんね」

「いいよー、久しぶりに話せてよかったし」

「また話そうね!じゃあね」

「気ィつけろよー」


パタパタとナマエは街灯の照らす街を駆けて行った。

暫く間が空いて、ボニーはまた話し始めた。


「アイツ元々金髪なんだ。あれ、染めてんの」

「な、」

「弟が金髪って言ってただろ。遺伝なんだよ。別にヤンキーとかだった訳じゃねェ。‥あ、弟はヤンキーだけどな」

「‥じゃあなんで」

「茶色にしたかって?金髪のせいでよく目ェつけられてたんだ。あたしみたいのとも仲良かったし。それでも本人は金髪気に入ってたから、染める気はなかったと思う」

「‥」

「何があったかまでは言えねェけど、ある時からナマエはまともに笑えなくなった。それから気に入ってたはずの金髪も茶色にして‥でも高校入って今の彼氏や友達に出会って、また笑うようになった」


ボニーは空になった酎ハイの缶をゴミ箱へ放り投げた。カラン、と清々しい音がした。


「幸せそうだろ。最近のナマエはあの頃と同じなんだ。笑顔取り戻したっつー感じかな」

「その彼氏のお陰なのか?」

「それだけじゃねェけどな」


ボニーは立ち上がり、パンパンとお尻を叩いた。それから残りの食いモンの入った袋を持つ。


「あんたにこんな話してどうなんだよな。悪かった」

「いや‥」

「ま、仲良くしてやってよ」

「あァ」

「んじゃ帰るわ」


ボニーは近くに停めてあった原付に跨がった。髪よりかはいくらか濁ったピンクの原付だった。


「あ、今の内緒だかんな」

「わかってる」

「サンキュ!また飲もうぜ、ゾロ」

「あァ」


ヘルメットも被らず、結構な爆音を立てながらボニーの原付は走り始めた(アイツはやっぱりヤンキーだな)。

時計は夜中の2時を指していた。










心を埋める君の存在
(僕は君の何も知らなかった)










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