それはまるで幻想のような


 
大遅刻を果たした入学式から、1週間が経過した。

俺のクラスはどうもバカが揃ってるらしく、毎日騒がしいったらありゃしねェ。


「おいルフィ!てめェ俺の焼きそばパン食ったろ!?」

「ふっへへー!(食ってねェ!)」

「嘘つけ!口ん中に入ってんじゃねェか!」


ウソップとルフィがやいやい騒いでるのを聞きながら、俺はボーッと窓の外を眺めた。

俺の席は窓際でちょうど校庭が見渡せる。あのサクラの木と体育館は死角で見えねェが、サクラの木に向かう奴が居れば見ることができる。

あの日からずっと、俺はあの女を探している。

入学式の日、俺は俺の担任になった野郎に起こされた。どうやら俺はあのまま眠っちまってたみてェだ。周りを見渡しても女の姿はなかった。

それから何故か俺は気付くと女のことを考えていた。

別に惚れたとかそんなんじゃねェ。ただ、名前くらい聞きゃよかったなって。礼も言えてねェし。

ただそうは思うが何の手掛かりもない。クラスは愚か学年も知らない。だからもう一度あのサクラの木に来るんじゃねェかって思って毎日暇さえあれば校庭を見下ろした。


「おいゾロ!」

「あ?なんだよ」

「腹減った」

「今ウソップの焼きそばパン食ったじゃねェか」

「焼きそばパン一つじゃ足んねェ」


今は昼休み。ウソップの昼飯の半分(焼きそばパン)を平らげたくせに、未だ腹減ったとうなだれるルフィ。次はどこからかおにぎり(梅)を取り出し‥


「あ!てめェそれは俺んだ!」

「いいじゃねェか!少しくらい!」

「てめェの少しは少しじゃねェだろ!つーか自分の飯は!?」

「忘れたァ」


くーん、とまるで犬だな。物欲しそうに俺の取り上げたおにぎりを見つめてくる。


「しゃあねェなァ」

「うひょー!ありがとうゾロ!!」


それはもう見事というか、一口で平らげるコイツの口はどんだけでかいんだ。

ルフィもウソップも入学してから仲良くなった。バカみてェな奴らだけど、なんだかんだおもしれェんだよな。


「お前が飯忘れるなんて珍しいよな」

「ホントだぜ。俺の焼きそばパン返せ」

「いやさァ、今日は「ルフィ!!!」


突然クラスに響いた声。クラス中の視線が声のした方、ドアの方へ向けられる。


「エース!!」

「ルフィの知り合いか?」


ウソップの質問に返事はなかったが、ルフィの名前を呼んだんだから知り合いで間違いねェだろ。


「こいつァみなさん、お食事中失礼します」


クソ真面目な挨拶をして、男はズカズカと歩み寄ってきた。

男は俺たちを見て、ルフィの友達か?いつも迷惑かけて悪ぃな、と頭を下げた。


「どうしたんだよエース」

「あァ、お前メール見たか?」

「メール?」


ルフィはポケットから携帯を出すと、ピッピッと数回ボタンを押して


「え!昼休みっていつだ!?」

「今だよ!」

「じゃあ急がねェと!」

「お前が言うな!」

「あだっ!」


いでぇー、と頭を押さえるルフィ。状況がわからねェ俺とウソップは首を傾げてそのやり取りを見ていた。


「なんなんだよ、ルフィ」

「昼飯が待ってる!」

「はァ?」

「今日はナマエの弁当が食えるんだ!」

「ナマエ?」

「あァナマエは「ルフィ、エース]


ウソップとルフィのやり取りを遮って聞こえてきた声。

歌うような、耳に心地良い柔らかい声音。


「ナマエ!」


ルフィの声が遠く聞こえる。まるで俺の周りだけ時間が止まったみたいに、なにも聞こえなくなった。

振り向いた先、扉から顔を覗かせる“そいつ”。

柔らかい栗色の髪。

目が合った瞬間、吸い込まれるような気がした。








それはまるで幻想のような
(これを運命と呼ばず何と呼ぼう)











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