ドリーミングガール


 
ガッガッガッガッ。

物凄い勢いでお皿から料理が消えていく。手品か魔法か、それはもうパッパッと消えていく。


「ホント良く食べるね、あんた」

「ほはへをふふはー?(お前も食うかー?)」

「いらない。それより食べながら話さないで」

「んー」


ガツガツと口の中にピラフを流し込む(ちゃんと噛んでんの?)。

あたしは別にこの人の彼女でもないし、むしろ知り合いな訳でもない。

じゃあなんでご飯を食べさせてるのか。それはあたしが聞きたいくらいだ。

既に空になった皿を重ねてキッチンへ運ぶ。ついでに食後のコーヒーを淹れながら、事の発端を思い出した。





「んー、今日も良い天気。さて、洗濯物でも干そう、か、な?」


いつものように朝目覚めて、いつものように表に出て伸びをした。

いつもと違ったこと。家の前に倒れている見たこともない少年。


「だ、大丈夫っ!?」

「‥く‥」

「え?」

「に、くーっ!!!」






変なモノ拾ったもんだ、と可笑しくなった。

湯気のたったカップを二つ持って、片方をすっかり全部平らげてしまった少年の前に置いた。


「悪ぃな!世話んなっちまって」

「飢え死にしかけてる奴見捨てらんないでしょ」

「ししっ!お前良い奴だな!」


あぢっ!、と一口コーヒーを啜った少年は、ペロリと舌を出した。

はは、と思わず笑ってしまう。

あたしは少しフーフーと冷ましてから、一口飲み込んだ。


「あ、名前聞いてなかった」

「おぉ!俺はルフィ!海賊王になる男だ!」

「海賊王?じゃあルフィは海賊なんだ」

「まだまだだけどな。これからもっと強くなって、ぜってェなるんだ!海賊王に!」


その瞳はキラキラ輝いていた。

海賊が怖くない訳ではない。ただ目の前のルフィは、奪って逃げるだけの海賊とは違って、希望に満ち溢れた夢を掲げる海賊。怖いどころか憧れすら抱いてしまう。


「絶対なってね、海賊王」

「当たりめェだ!」

「はは、じゃあさ、海賊王になったらまたここへ来てよ」

「いいぞ!お前の飯うめェもんな!また食いてェ!」


ニカッルフィは笑った。

あたしもそれに応えるように笑った。


「そういやお前の名前、なんつーんだ?」

「あたしはナマエ。ルフィみたいな夢はないわよ」

「夢、ねェのか?」

「う、ん‥」


夢。

夢とはなんだろう?

あたしは生まれてから一度もこの島を出たことがなかった。

両親が死んで身寄りがなくなっても、あたしはこの島を出る気はなかった。

‥というかそんなこと考えたこともなかった。


「ねぇルフィ」

「なんだ?」

「冒険の話、聞かせて」






 * * *






世界は広い。

海に浮かぶ、小さなこの島しかしらないあたしにはルフィの冒険がすごく魅力的だった。


「あたしも、冒険したいな」

「一緒に来るかァ?」

「え‥」


願ってもない誘い。

ついて行きたい。世界を見たい。

だけど、


「ごめんなさい‥」


あたしにはそんな勇気も力もないから。あなたたちの足手まといは嫌だから。


「なんでだよ。楽しいぞォ冒険は」

「うん。ホントはすごく行きたい。けどね、ルフィ」

「うん?」

「あたしはここで、またルフィが来てくれるのを待たなくちゃ」


ルフィが海賊王になったとき、会いに来てくれる。

あぁ、それをあたしの夢にしよう。


「ルフィ」


とっくに空になったカップを手で弄びながら、ルフィに笑ってみせた。


「あたしの夢はあんたが海賊王になって、またここへ来てくれること」

「ししっ!そっか!じゃあ絶対叶うぞ!」


太陽。そう例えるのが相応しいほどの眩しい笑顔でルフィは笑った。

胸があったかくなる。


「次に会うときは、あたしも冒険に連れて行ってね」


それまでに強くなっていよう。

ルフィと冒険できるように。足手まといにならないように。


「港まで送っていくよ」


カップを下げ、あたしは玄関の戸を開けた。





ドリーミングガール
(いつかの冒険を夢見て)







「てかなんで餓死しかけてたの?」
「飯屋探して船飛び出したら迷っちまった」
「ご飯屋さんならあたしの家の横だけど」
「なんだとー!!」
「こんな人が船長で大丈夫なのかな?」









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