好きすぎてどうしようもねェんだい。
「ねぇマルコ、このネックレスどう思う?」
「おォ、いいんじゃねェかい」
「ホント?これね、サッチがくれたの!」
「‥は?」
「昨日着いた島で見つけて、あたしに似合うと思って買ってきてくれたんだって!」
「……」
「ふふ、サッチったらいい趣味してるよね」
「…外せよい」
「え?」
「外せって言ってんだい!」
「ちょっ、マルコ!?」
頭ではわかってるんだい、こんなことしちゃいけねェって。
でも、先走った気持ちに体が伴って、
「痛っ‥」
「‥っ」
床に散らばったいくつものガラス玉。手の込んだ工芸品かなんかだったのだろう。半透明の薄い青い玉の羅列は細いナマエの首によく似合っていた。
…もう過去の話になっちまったけどな。
「な、なんで壊しちゃうの!?こんなの‥っ!」
「……」
「折角、サッチが‥っ」
「サッチが‥なんだい?」
「っ!」
どうして俺は、こうも大人気ねェんだい。
頭では謝んねェといけねェって思うのに、ナマエの口から出たサッチという言葉にカッとなって、気付けばナマエの腕を壁に押さえ込んでいた。
目の前のナマエは目に涙を溜めて、怯えきった表情で俺を見上げている。
そんな顔さえ、愛しくて、壊してしまいたくなる。
「ナマエ、お前は俺の女だい」
「う、ん‥」
「他の男なんて見んじゃねェ」
「見てないよ!あたしは、マルコだけっ」
全部聞く前に、俺の理性は限界を迎えちまったみてェだい。
噛み付くようにその唇に喰らいつく。
ビクッと身体を震わせたナマエは、一瞬だけ離れようと抵抗をみせた。それを阻止するように腕を押さえる力を強くする。
唇を割って無理矢理舌を捻じ込めば、熱くなり始めた口内で今度は舌が逃げ回る。
それを捕まえ絡ませると、くちゅ、と唾液が口角から溢れて、ナマエは甘い声を出し始める。
クラクラする。
「ふっ‥」
「ナマエっ‥!」
「マル、コ」
一度ふっきれた理性は、そう簡単に戻るもんじゃねェ。
俺はナマエの服の袖から手を滑り込ませた。
さっきよりも幾分か大きくその身体がビクついた。
「ちょっとマルコ!ダ、ダメだよっ!」
「うるせェよい」
首筋に顔を埋めた。
「‥?」
血の味がした。
驚いて顔を離すと、そこは横一直線に切れていて血が滲んでいる。
さっきの、せいだ。
そう悟った瞬間一気に理性が蘇ってきて、どうしようもない気持ちが込み上げてきた。
俺は、なんてことしちまったんだい。
「マルコ‥?」
「……」
「怒っちゃったの?ごめんね、そのダメっていうのは‥」
「‥悪かったよい」
「え?」
何か言いたげなナマエの首筋にもう一度顔を埋める。そして血の滲むそこに舌を這わす。消毒代わり、なんてもんにはならねェかもしんねェけど、そうでもしなきゃ気が済まなかった。
ナマエは小さく声を漏らして、俺の肩を押し返してくる。
「マルコっ‥やめっ」
「……」
いつもこうだった。自分の気持ちを優先して、ナマエを傷つけて、嫉妬に任せてナマエを抱いて、同じことの繰り返しだ。
こんなことじゃいつかナマエさえ失っちまうかもしれねェのに、いつまでも俺は子供のまま。
「ナマエっ‥」
強く抱き締めた。いつまでもガキな自分を嫌わないでくれと、請うように。
カラカラと足元でガラス玉が転がった。
「ネックレス‥」
「‥もういいよ。サッチには悪いけど、あたしが無神経だったのが悪いの」
「お前は、悪かねェ」
悪ィのは、俺なんだい。
「マルコも悪くないよ。‥サッチには謝っとくし」
「……」
「怒ってないから、ね?」
どうしてナマエはこんな俺に優しい言葉をくれるんだろう。
自我を抑えることも出来ない、いつまでもガキな俺に、どうして‥。
「そうだマルコ」
「‥なんだい?」
「代わりのネックレス、マルコが買ってよ」
「‥それでいいのかい?」
「うん!あたしマルコから欲しい!」
「‥わかった、よい」
「ふふ、楽しみだなァ」
俺の腕の中でナマエは笑った。その声は遠足を待ちわびる小学生のように、サンタクロースのプレゼントを心待ちにする幼稚園児のように、ウキウキと楽しそうなものだった。
なんだか、嬉しくなった。
ナマエもまだまだ子供じゃねェか。
「そんなに楽しみかい?」
「うん!すっごく楽しみ!」
「そりゃ良かった」
子供みたいなナマエの笑顔に吊られて笑顔になれば、このままでもいいのかもしれないと思えた。
身体ばっか成長して、心はいつまでもガキなまま。
だけど、だからこそ俺たちはいいのかもしれない。
「ついでにさ、お揃いにしちゃおっか?」
「それなら俺は指輪の方がいいよい」
「ホントに?ペアリング買ってくれるの?」
「あァ、いいよい」
「やったー!マルコ大好きっ!」
二人なら、いつまでも一緒に居られるような気がした。
不釣り合いな二人
(だからこそ惹かれ合う)
「あ、そういえばこのケーキ今日エースが」
「……」
「ちょっ、えっ!?なんで無言で食べちゃうの!?あたしが貰ったのに!」
「今度買ってやるよい」
「今食べたかった!」
「俺は今お前が食べたい」
「なっ‥!」
「それとこれから他の男から何か貰うの禁止だからな」
「え!?」
「返事は」
「‥はい」
「ん、良い子だい」
「わ!ちょ、マルコっ‥!」
To マイ様 From もこ
◎大好きなマイちゃんに捧げます!相互ありがとうございます。