グッバイナイトメア


 
怖い夢を見た。

君が居なくなる。

君が見えなくなる。

君が、



目が覚めたとき、あたしは泣いていた。

ただ静かに、コップから水が溢れるように、頬を涙が伝っていた。

その涙に気付いた後、あたしは気付いた。

あたしの身体を抱き締める大きな腕と、首を擽る黒髪に。


「‥エー、ス?」

「……」

「エース‥?」

「‥悪ィ」


もう少し、このままで。

いつになく弱気なエースの声に、あたしは何も言えなかった。

ただ、その身体に腕を回して抱き締め返すことしかできなかった。


「‥悪ィ、な」

「ううん‥あたしも、こうしていたい」


ぎゅっとエースの力が強くなるのに比例して、あたしも力を強くした。

エースの首に顔を埋めて、深く息を吸って。

エースの吐息が、匂いが、あたしを落ち着かせる。


「‥嫌な夢、見たんだ。だせェよな‥ホント」


はは、と掠れた声でエースは笑った。

同じだ。

エースも、あたしも、

失うのが怖いんだ。お互いを。


「あたしも‥、あたしもエースを」


涙が溢れて、続きを言うことができなかった。

怖いよ、エース。

ずっと、ずっと一緒に居たいよ。


「‥ごめ、」


いつの間にかあたしの涙がエースの髪を湿らせていた。

慌てて離れようとすると、それを阻止するようにさらに引き寄せられた。

痛いくらいの抱擁だった。


「エー、スっ‥」


我慢出来なくて、すがるように泣いた。

離れないでと、傍に居てと。


「大丈夫だ」


掠れた声だけど、力強い声だった。

何が、と問わなくてもわかる。

エースにあたしの気持ちがわかるように、あたしにもエースの気持ちがわかるんだ。


「ずっと傍にいる」


ほら、エースはわかってる。


「お前を一人にしない」


あたしが今一番言って欲しい言葉を、わかってる。


「大丈夫だ、絶対‥大丈夫だ」


あたしに言い聞かせるように、エース自身に言い聞かせるように、何度も何度もエースは大丈夫と繰り返した。

大丈夫、その言葉は魔法のようにあたしの脳に浸透した。


「このまま、」

「ん?」

「一つになっちゃいたいね」


あたしの頭を撫で付けていたエースの手が、ピタリと止まった。

不思議に思って、身体を少し離してエースの顔を覗く。

でも覗けたのは一瞬だけで。


「エー、っ」


エースが、あたしの唇に噛み付いた。

パクっとくわえ込むように唇に吸い付かれたかと思えば、啄むように、チュッチュッと音をたてながら唇を合わせられる。

なんとも甘い、キスだった。


「可愛いこと言ってんじゃねェよ」


食っちまうぞ。

そう耳元で囁かれれば最後、

あたしは全て忘れて、君に溺れていく。








グッバイナイトメア
(君と溶けるような夢を)








大丈夫、二人なら。

絶対、絶対、離れないよ。


「エースっ‥」

「ん‥?」


ずっと一緒に居ようね。









To JING様 From もこ

◎JINGが安眠出来ますように!








「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -