◎学パロ
初めて彼氏ができた時というのは、どうすればいいのかわからない。
手を繋ぐタイミングは?初デートに誘うタイミングは?チューするタイミングは?エッ‥これ以上は恥ずかしくなるから言わないでおこう。
とはいえ、大概こういうアクションは男性の方から起こすものであり、女のあたしがあれやこれやと思案しなくてもいい。あえて述べるならば、女のあたしは心の準備というモノさえしていればいいのだ。
「行くぞ」
「え?」
しかしあたしの初めての彼氏(所謂初彼なるもの)、トラファルガー・ローは、心の準備というやつを全くさせてはくれなかった。むしろ油断しきっている時にアクションを起こしてきやがったのだ。
下駄箱で靴を履き替えた瞬間、どこから現れたのかもわからないローに、なんの前触れもなく掴まれた左手は簡単に指を絡め取られた。これが世に名高い恋人繋ぎというやつか。
ちなみにいうと、中学校の時にしたフォークダンスや小学校低学年の時の遠足以外で男性と手を繋いだのはこれが初めてである。
しかし心の準備をしていなかった分、理解するのにかなり時間を要してしまった。暫く繋がった手を眺めることで、やっと手を繋いでいることを自覚した。そして思った。こんなにあっさりとしているのかと。
「ロ、ロー」
「なんだ?」
「手‥」
「‥嫌か?」
ブルブル首を振った。滅相もない。むしろ嬉しいです。‥って何思ってんだあたしは。変態か。変態なのかあたしは。
少し前をあたしの手を引いて歩くローは、歩調を緩めて僅かに首を後ろに向けてきた。バチっと目が合った。あァ、ドキドキする。
恥ずかしくて、見つめ合うなんてできなくて、伏せることで目を反らすとローが小さく笑った。
「な、何‥」
「いや」
ククッ、と喉を鳴らして笑うローに何故か羞恥が込み上げてきた。付き合ってまだ1週間ちょっと。女の子に慣れてるローとは違って、あたしには免疫がない。こういう時の対処法なんて知らないし、知っていたとしても実行できる程心に余裕がない。
もうやだ。恥ずかしい。ていうかどうしてこんなことになっているんだ。‥ん?
ふと、疑問に思った。あたし達はどこに向かっているんだろう。
家まで送ってくれるのだと思っていたのだが、どうも違うみたいだ。明らかに家とは方向が違うし、大通りに近づいている気がする。現に、賑やかな人のざわめきが遠くに聞こえる。
「どこ、行くの?」
「ん?」
「っ‥」
振り向かないでください。そんなまじまじ顔見ないでください。恥ずかしいんです。あァ、穴があったら入りたい。
顔が赤いであろうあたしを見て、ローはまた喉を鳴らして笑った。この人絶対Sだ。ドSだ。動揺してるあたしを、恥ずかしがってるあたしを、見て楽しんでる。悔しい。悔しいけど、なんか嬉しい。‥ってやっぱりあたしは変態か。変態なのか。
とりあえず、質問に答えて頂きたいですローさん。
「さァな」
「え、」
それは反則でしょうが。あたしには知る権利があるはずだ。何故教えてくれない。隠す必要があるん‥はっ!まさか、まさか、キスもまだの今の状況で飛び級しちゃうんですか?大人の階段上がっちゃうんですか?お母さん、ごめんなさい。あたしはこの人に食べられちゃうみたいです。
あァ!でもダメだ!今日の下着は上下バラバラだ。上はピンクのレースだけど、下は‥パンダマンパンツだ!ダメダメダメっ!絶対無理っ!そんなもの見られたあかつきにはあたし死んじゃう!つーか付き合って1週間でそれはないと思いたい!ないよね!ないよねェェェエっ!?
「ぶふっ‥」
いきなり立ち止まったローの背中で思いきり顔をぶつけた(は、鼻打った)。何事かと思ってローを見るけど、背中だけでは何もわからない。周りを見渡せば‥嘘でしょ。
右側に思いっきり怪しい路地があるんですけど。昼間から凄くピンクいっていうかアハ〜ンな雰囲気の出てる建物が立ち並んでるんですけど。もう明らかになんかやっちゃってスッキリしちゃってるカップルが出てきたんですけど。
まさかローさん、ここに入ったりしませんよね?ここの路地行っちゃったらもうアレですよね?ああああああ!パンダマンパンツなんて選ばなきゃよかった!なんでよりによって今日なんだ!こんなことなら真っ赤なレースパンツにすればよかった!ってそんなハレンチパンツ持ってないけど。
「ロー、あの‥」
「ん?あァ、悪ィ悪ィ。ユースタス屋からメール来てたんだ」
「え?」
「ん‥、行くか」
パタン、と聞き慣れた電子機器を閉じる音がした(つまり携帯)。なんだ。メール返してただけなのか。っていうかユースタス屋ってキッド君だよね?そんなに仲良かったっけ?いっつも喧嘩してるなァ、とは思ってたけど。
「明日は血を見ることになるな」
「‥え?今何て?」
「ふ‥なんでもねェ(ユースタス屋の野郎、俺とナマエのこと冷やかしてきやがった。明日はただじゃおかねェ)」
ローさん凄く顔が怖いです。っていうか怪しいです。何か悪巧みをしている、漫画でいう悪役みたいな顔してます。まァそんなこと言ったら後が怖いので言いませんけどね。
しかし本当にどこに向かってるんだろう。再び歩き始めたローに、あたしは引っ張られるままだ。
「ねぇ、本当にどこ行くの?」
「‥デートだ」
「‥え、」
ま、マジですか。
ていうか言ってる傍から、目の前にゲームセンターが見えてきたんですけど(マジみたいです)。
* * *
デートがこんなに楽しいものだとは。少女漫画とか友達の話とかでしか知らなかったけど、自分で体験してみるとやっぱり想像とは全然違う。
プリクラ撮っちゃって(大好きって書いちゃったよ!すっごい恥ずかしいんだけど)、UFOキャッチャーでぬいぐるみ取ってもらっちゃって(ベポちゃんぬいぐるみ!ふわふわで気持ちいの)、マリオカートもやっちゃって(あたしの全敗ですけど何か?)、映画も見ちゃって(ガンダムだったけどね。あたし全くわからなかったんだけどね。他にも海猿とかハナミズキとかあったでしょうが。何故それをチョイスしたんだローさん。何か。ガンダムファンだったのか。それともアレか。中の人繋がりか。)。
とりあえず楽しかったんです。ローの知らない一面も見れたし(特にガンダムファンだったこと)。何より前より明らかに仲良くなれた。カップルっぽくなった。そして少し恥ずかしさもマシになった。
「家までわざわざありがとう」
「俺が連れ回したんだ。当たり前だろ。それに、自分の女一人で帰らせる訳にはいかねェだろ」
「な、」
そんなさらりと恥ずかしいことを言わないで。って今ニヤってした!計算の上なのか!?そうなのかトラファルガー・ロー!?
ん?っていうか何故手が握られたままなんだ。何故引き寄せられてるんだ。何故顔が近づいて‥
「っ‥」
「‥ち」
後、数センチ。ローの携帯が音を立てた。プルル、とシンプルな着信音のする携帯をポケットから引っ張り出すと、サブ画面を確認するロー。瞬間、明らかに機嫌が悪くなった。っていうか顔が怖いです。
「‥消されたいのか」
〔んだよ、デートは終わったのか?どこまでした?チューした?チューしたのか?〕
「(今からするとこだよ)黙れ、今すぐ黙れ」
〔教えろよォ〜、エッチはしてねェんだろ?いや、お前なら有り得るか〕
「用がねェなら切る」
〔は?いやまだ聞いて〕
ローは乱暴に携帯を閉じると、小さく息を吐いた。
「誰?」
「気にするな。アイツも明日消す(大食い女め。ユースタス屋共々消してやる)」
「え、」
やっぱりローさん。顔が怖いです。
しかしその後ローは一瞬あたしを見て、またニヤリと笑った。キュン。ってやっぱりあたしって変態!?変態なの!?もういい加減誰か教えて!
「続きはまただ」
続きって何ですかァァァァァァア!!え?え?ええええぇぇぇぇえ!?アレですか!チューですか!チューですよねコレって!犯行予告ですかローさんんんんっ!?
「じゃあな」
「え、‥あ、う、んっ!?」
一瞬だった。腕を引かれて、そのまま、そのまま、
「気が変わった。今貰う」
やっちゃった後に言うセリフじゃないですよ、ローさん。あああっ、またニヤってした!やっぱり計算の上かコノヤロー!!!
畜生!なんか悔しい!あたしばっかり恥ずかしい!あたしばっかりやられっぱなし!だったら、だったら、こっちも、
「……かい」
「あ?」
「もう、一回」
一瞬目を剥いたローは、今日一番のニヤリ顔で笑った(あァ、やっぱり恥ずかしいです)。
真っ赤なほっぺはきっと甘い
(僕だけの可愛い君に口付けを)
「最後までやっちまうか」
「すみません。それは無理です。勘弁してください」
「ち‥それならナマエからキスしろ。じゃねェとここで犯す」
「ここって家のま、ぎゃああああ!スカート捲らないで!」
「ささっとしろ」
「(泣きたい死にたい恥ずかしい)‥あ」
「あ?」
「さっき、名前‥(初めて呼ばれた!)」
「‥」
「(またニヤってしたよ!この人!)」
「早く続きしようぜ」
「続きって何です、ぎゃああああ!」