◎狂愛、裏表現注意
もう、やめてよ。
そう言おうと口を開いても、カラカラに枯れた喉から声が出ることはなかった。代わりに空気だけが不規則に体外へと吐き出された。
「やめて欲しいのか?」
あたしの何を見てそう察したのか、目の前の男は口角を嫌味に吊り上げながら言った。
しかし聞くだけ聞いといて本当にやめる気はないようだ。
「、や‥っ」
掠れた声で僅かに漏れた抵抗も虚しく、ドフラミンゴは力なく仰向けになっているあたしの上に跨がった。
もう何度白濁液を飲まされたかわからない唇に、乱暴にキスをされる。キツく目を瞑ると、また涙が溢れた。
「その面がよォ」
離れた唇からはだらしなく唾液が糸を引いていた。ペロリ、とそれを舐めとったドフラミンゴは、全くと言っていい程力の入らなくなったあたしの足を抉じ開けた。
そして、ニヤリ、と歪んだ笑みを浮かべて、
「そそるんだよッ」
「やああ‥ぁっ!」
一気に自身を突き立ててきた。
掠れた悲鳴をあげ、あたしは背を仰け反られた。
もう何度も突き上げられているのに、声だってガラガラなのに、体は正直にドフラミンゴを感じていた。
「やっ、ぁ‥あああっ!」
「まだまだ、鳴けそうだなッ」
ピストンを速めて、何度も何度も最奥を突き上げてくる。
あたしの体を熟知しているドフラミンゴは良いとこばかり攻め立てる。
「ひゃ、んッ、あぁっ‥」
「顔反らすんじゃねェよ」
もっと見せろ。
そう言いながらドフラミンゴは右手であたしの髪を掴み、左手で肩を掴んだ。
無理矢理顔を上げさせられ、歪んだ顔を晒される。
ドフラミンゴは楽し気に、どこか嬉しそうに笑っている。
涙が溢れた。
「あああっ、やっ、はっ‥んうっ」
「堪んねェな、その面ッ」
悔しい、悔しい。
なんの抵抗もできない自分が、こんな男に感じてしまう自分が。
そして何より、こんな男を愛している自分が悔しい。
「もっ‥やっ、ああッ」
「俺より先にイクんじゃねェよッ!」
「あぁあ‥っ!」
ドフラミンゴのあたしの肩を掴む手の力が増した。爪が食い込んで痛い。だけど、それが逆に快感へもなっていった。
体全体がドフラミンゴを感じている。ドフラミンゴが触れるとこ全てが、快感を生む。それは例え首を締められても、殴られても、爪で歯で皮膚を抉られても。その全てが快感になる。
狂ってるのよ。あたしも。ドフラミンゴも。
「ああっんっ、やあぁあっ!!」
「っ‥!」
熱いモノが体の中へ流れ込んできた。
その瞬間、あたしも今日何度目かもわからない絶頂を迎えた。
「はあ、はあ‥っ」
「フフッ‥やらしい女だぜ」
違うわ。あたしがやらしくなるのは、ドフラミンゴの前だけよ。
「犯されといて、何喜んでんだよ」
ドフラミンゴはあたしの顔の横に手をつき、厭らしく笑いながら汗で額に張り付いたあたしの髪をどけた。
その手付きが妙に優しくて、なんだか無性に泣きたくなった。
それを隠すように、腕で目を覆った。
「なあ、ナマエ‥」
ドフラミンゴに名前を呼ばれることなんて滅多にない。行為中でさえ、名前を呼んではくれない。それは彼にとってあたしとのセックスは、自己の欲求を満たすためのものであって、愛を確かめ合う恋人同士の行為ではないから。
それがいきなり呼ばれたもんだから、反応に困ってしまった。
とりあえず返事をすべきかと思い、口を開くが声が出ない。すっかり喉が潰れてしまっている。
代わりに目は隠したまま、軽く首を傾けた。
「お前は、なんで来るんだよ」
「‥?」
「俺から呼び出されりゃ、こうなるってわかってんだろ?」
「……」
ドフラミンゴに犯されるのは、初めてじゃない。
むしろ数えられないほど。しかもその全てがドフラミンゴがあたしを呼び出したとき。
「フフッ、お前、レイプ願望でもあんのか?」
「ち、が‥っ」
「あん?」
声が上手く出ない。もどかしい。もどかしい。
「ドフ、っ‥」
ドフラミンゴだから、あたしは来るのよ。ドフラミンゴだから。ドフラミンゴが、好きだから。
「っ‥」
もどかしい。伝えたい。
でも、それを伝えるべきかも正直わからない。
ドフラミンゴに拒否されるのではないかと。面倒くさがられるのではないかと。
いろんな感情が胸を埋めて、涙となって溢れ出した。
「おい」
腕をどかそうとしたのか、ドフラミンゴの手があたしの腕に触れた。
そこからさえ、あたしの体には快感の小さな波が生まれる。
「や、‥」
「あ?」
あたしはその手を振り払った。
残った体力でドフラミンゴの下から抜け出して、シーツを引っ付かんで体を包んだ。
「てめェ、まだ足りねェのか?」
「っ!?」
ドフラミンゴの声音は、酷く低かった。僅かに、怒気が含まれていたのかもしれない。
ドフラミンゴとしては腕をどかそうとしただけなのに、それを拒否された。俺様主義なドフラミンゴを、怒らせるには十分すぎる。
「フフフッ、いいぜ。抱いてやる」
「あ‥っ」
「来いよ」
そう言いつつも、ドフラミンゴがあたしに近づいて来るのがわかった。
逃げなくちゃ。もう、今日は耐えられない。
「っ‥」
体が動かなかった。
その間にもドフラミンゴはあたしのすぐ後ろに来ていて、後ろからシーツを引っ張られた。
「ひゃ‥」
「逃げんじゃねェよ」
「、め‥っ」
そのまま前のめりに押し倒された。
ツー、と背中をドフラミンゴの舌が這う。ゾクゾクする。体が熱くなる。
「やあっ‥ぁ」
後ろから回ってきた腕が胸を乱暴に掴む。グリグリと突起を押し潰され、言い様もない快感が全身を駆け巡った。
ダメ。ダメ。このままじゃ、全部埋もれちゃう。
あたしの感情も。ドフラミンゴの感情も。
「や、‥てっ」
「ああ?」
ドフラミンゴの腕を掴み、体を捻り向かい合った。
訝しげに眉を潜めるドフラミンゴに直面して、思わず気圧される。
「‥っ、」
それに負けないように、埋もれないように。
声が潰れたって、抱き締める力がなくなったって構わない。
伝える術が、ない訳じゃないから。
「、っ」
「な、」
あたしはドフラミンゴにキスをした。
なぞられた唇で噛み付く
(全テガ狂ッタ愛ノ行ク末)
血の味がした。
あたしとあなたの歪んだ愛の味。