嫌よ嫌よも好きのうち


 
「マルコなんて大っ嫌い!」


グビグビと一気にジョッキのお酒を飲み干した。かれこれ3杯目である。


「グララララ、喧嘩でもしたのか?ナマエ」

「別に‥とにかく嫌いなの!今は飲みたいの!」

「さっきからずっとこうなんだ。飲みてェの一点張りで‥」


エースが溜め息をついたけど聞こえないフリ。むしろジョッキを突き出してやった。


「もう一杯!」

「それ飲んだら理由聞かせろよ」


親父はいつものように甲板の椅子に腰かけて、俺にも寄越せ、と手を差し出した。

エースがあたしのジョッキに注ぐ間に、親父用の大きなジョッキに注いでやった。

それを親父に渡し、エースの横に戻り自分のジョッキに口をつけた。


「何があったんだ?馬鹿娘」

「……」


思い出すとまた泣けてきた。別に泣き上戸な訳じゃない。

グビグビともう一杯を飲み干して、タンッとジョッキを床に置いた。

エースは黙って自分のジョッキに注いだ後、またあたしのジョッキに注いでくれた。


「親父、寝なくていいの?」

「辛気臭ェ顔した娘おいて、おちおち寝れやしねェ」


グララララと笑った後、悪ぃと思うならさっさと話せ、とあたしに話すよう催促した。


「ありがとう‥あのね?」


ゴクッとエースが一口飲んだ。


「マルコが子供作った」


ブーッとエースが吹き出した。

親父も思わず目を見開いていた。

あたしはまた泣きそうになったから、またお酒を飲み干した。


「こ、子供って、お前にか!?」

「違う。ナースの子」

「はあっ!?」


エースの反応にも納得がいく。だってあたしはマルコの彼女なのよ?その彼女じゃなくて、多分浮気であろうナースの子を孕ませるなんて‥。


「マルコのバカヤロー!!」

「俺がなんだって?」

「ひっ!!」


いきなりしたパイナ‥マルコの声に思わずジョッキを落としてしまった。

恐る恐る振り返ると素敵なバナナ頭のマルコが、眉間に皺を刻んで立っていた。


「エース!親父!助けて!」


ばっとエースの背中に隠れた。

さらにマルコの眉間の皺は深くなった。


「ナマエ、エースの背中なんかに隠れんじゃねェよい」

「やだ!」

「マルコ、お前ひでェじゃねェか」

「何がだよい」

「てめェが一番わかってんじゃねェのか?」


エースがすごく心強い!もっと言ってやって!エース!!


「だから何がだよい。わかんねェから聞いてんじゃねェかよい」

「そんな薄情な奴だと思わなかったぜ。見損なった」

「だからなんなんだよい!」


勢い良くマルコの胸ぐらをエースが掴んだ。マルコもエースの肩を掴み睨み返す。


「やめねェか!馬鹿息子共!!」


ヒュッと親父のジョッキが二人の顔の間に飛んだ。

二人は体を離したが未だ睨み合っている。


「エース、ちゃんと説明してやれ」

「‥いいのか?ナマエ」

「……」


本当だったらすごく嫌。死んじゃいたいくらい。


「ナマエ、聞かねェと真実なんてのはわかんねェだろ」

「‥うん」

「マルコ、てめェナース孕ませたらしいな」

「‥は?」

「ナマエが言ってんだ。間違いねェんだろ?」

「待てよい!そりゃ誤解だい!」

「誤解?」

「ナマエお前、俺とナースの会話聞いちまったんだろい?」

「うん‥」

「ありゃ違ェんだよい。アイツは確かに子供ができた」

「やっぱりマルコ‥」

「最後まで聞けよい。父親は俺じゃねェ。俺の隊の奴だい」

「へ?」


すっかり固まって動けなくなっているあたしとエース。親父は知っていたのかグラグラ笑っている。

それからあたしとエースは向かい合って、とりあえず


「逃げろ!」

「おう!」

「逃がすかよい」


走り出したあたしとエースを追って、ボボッとマルコは不死鳥に変身する。


「能力使うとかずるい!」

「ナマエ悪ぃ」

「え!?」

「炎上網(えんじょうもう)!」

「なんですとぉ!?」


エースの裏切り者ー!と叫んでも時既に遅し。ふわっとあたしの体はマルコに捕まった。


「離せー!」

「てめェ変な勘違いしやがってよい。おまけに馬鹿とはなんだよい」

「馬鹿馬鹿馬鹿!マルコなんて嫌いー!」

「どの口がンなこと言うんだよい」

「ふむっ!」


無理矢理に塞がれた唇。熱い舌が入ってくる。


「‥っ」


涙が溢れた。

誤解でよかった。本当に、よかった。


「馬鹿マルコ‥嫌い‥っ」

「不安にさせちまって悪かったな」

「嫌い‥嫌いー‥っ」


よしよし、と撫でてくれる手は温かかった。

やっぱりあたしはマルコが好き。


「好きぃ‥」

「可愛い奴だよい」

「馬鹿っ‥」


もう一度キスされて、頬の涙を舐めとられた。


「マルコ‥」

「ナマエ、おめェガキが欲しいのかよい?」

「はい?」

「んじゃ、ちょっくら作るか」

「は、はいぃ!?」

「親父、もうすぐ孫に会わしてやるから待ってろい」

「そりゃ楽しみだ。グララララ」

「え!ちょっ、嫌ー!!」








嫌よ嫌よも好きのうち
(素直になれない不器用なあたし)







「親父、知ってたんだろ?」
「グララララ、マルコが浮気なんざするタマかよ」
「確かに‥にしてもマルコも元気だな」
「もうすぐ孫に会えるらしいぜ」
「その前にナースの奴が産むんだろ?」
「孫なんて何人いようが一緒だ、バカ野郎」







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