悪戯にキスをして


 
なんてことだ。

目が覚めて数秒後、あたしは青ざめた。

その理由は今あたしの横で気持ち良さそうに寝息を立てる男、白ひげ海賊団2番隊隊長、ポートガス・D・エース。

立派な賞金首だ。


「ありえない‥」


とりあえずあたしは自分の体をチェックしてみる。

もちろんと言っていいのか、服なんて身につけていない。つまり全裸である。

それは隣で眠るコイツも一緒だ。

頭が覚醒してくると共にこれまでの経緯がはっきり蘇ってくる。

あたしは酔っていたんだ。





「姉ちゃん一人か?」

「そうだけど?」

「よかったらさ、一緒に飲まねェか?」

「ふふ、それってナンパ?」

「違うっつったら嘘になるな」

「いいわよ。その代わり楽しませてね」

「お安い御用だ」






酔っていたのと、この男が意外にもかっこよかったから。

あたしの腰に回された手があたたかかった。

気づくとあたしとコイツは体を重ねていた。


「どうしよう‥」


危害を加えられたって訳じゃない。

だけど何億という賞金首と関係を持ってしまうなんて‥。

いつ本性を表すかわかったもんじゃない。


「よし」


あたしはコイツに聞こえないよう小さく呟いて、汗でベタついた体を起こした。

このまま服を着るのはどうも気持ちが悪い。

男がどっぷり夢の中であるのを確認して、あたしはシャワー室へと向かった。






 * * *






汗を流す程度に頭からお湯を浴びて、髪から乱暴にぐしゃぐしゃと水分を抜く。

部屋に入ると男はまだ夢の中。

床に散らばった服を寄せ集め、まず下着を身につけた。

その時だった。


「ん‥」

「ひゃっ!!」


突然男の体があたしの体にもたれかかってきた。いきなり後ろからかかってきた体重と、いきなり後ろから回された腕に思わず声が漏れた。

恐る恐る男の顔を伺うと、未だ静かな寝息をたてていた。つまり寝相って訳か。

ふぅ、とひとつ息を吐いて着替えを続けようとした、のに


「(邪魔‥)」


男の腕が後ろから腰に回されて着替えようにも着替えることができない。

動かせば着替えを続けることができるが起きるかもしれない。

どうしようか、と首を捻った。


「っ!?」


突然男の手が動いた。

がっちり男が掴んだもの、というか握ったもの。

ふにゃふにゃ、と感触を味わうように動く手に羞恥心が募る。


「やっ‥」


コイツ起きてんじゃないの!?と腕を引き離して男の顔を見た。


「‥」

「寝、てる」


なんなのこの男。どんな寝相してるのよ。

じっと男の顔を見つめる。

本当に寝ているのは明らかで、気持ち良さそうに目を瞑っている。


「ホントに海賊かしら」


こんなに警戒心もなく、他人の前で寝れるもんなのだろうか。

なんとなく興味が湧いて、その髪に触れてみた。癖のある毛は意外にもサラサラと流れて柔らかい。

それから顔の輪郭。そばかすのちりばめられた肌はそれでいて綺麗だった。整った顔立ちで、形の良い唇はうっすら開いていて妙に色気がある。

ゾクリ。

体の芯が沸き立つような感覚。

別に昨夜の情事を思い出した訳じゃない。ただ、この男に触れたくなった。さっきまであんなに怖がっていたのが嘘のように。

ゆっくり、顔を近づけた。

なんでかな?ドキドキ、胸がうるさい。

目を閉じた瞬間、後頭部に何かが触れて引き寄せられた。


「(え‥?)」


目を開くより先に唇が触れた。


「寝込み襲ってんじゃねェよ」


唇が離れると、悪戯に笑う彼がいた。






悪戯にキスをして
(またドクリと胸がなる)






「起きて、たの?」
「お前がシャワー浴びてるとき起きた」
「な、」
「お前こそ着替えて何する気だったんだよ」
「か、帰ろうかなって」
「バカじゃねェの。帰す訳ねェだろ」
「えっ!?ちょ、きゃあっ!」










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