天気は快晴。波も穏やか。
今日も平和な1日が始まる。
「ロロノア・ゾローっ!!」
麦わら海賊団の船、ゴーイング・メリー号の甲板で声が響いた(もちろんあたしの!)。
船首の前で仁王立ちし、目的のロロノア・ゾロが出てくるのを待つ。
眼鏡を外しながら航海士のナミちゃんが出てきて、それに続くようにぐるぐる眉毛とロビンちゃん、長鼻野郎、タヌキちゃん、そしてクソゴム人間が甲板へと出てきた。
「ナマエ、あんたまた来たの?」
「ナマエちゅわーん!今日もプリティすぎるぜマイハニー!!」
「黙れぐるぐる眉毛!それとナミちゃん!あたしの辞書に“諦め”って言葉はないのよ」
「はいはい、とりあえず入りなさいよ」
「その前に!ロロノア・ゾロは!」
「ルフィ、ゾロはまだ寝てるわよね」
「ゾロは寝坊助だからな。イビキかいてやがった」
「口を開くな!クソゴム人間!」
「ナマエはルフィとサンジに厳しいな」
「てめェもだよ長鼻野郎!無駄口叩く暇あんならロロノア起こしてきな」
「えー」
「あ?」
「ふふ、ナマエさんはホント男の人が嫌いなのね」
「おれも嫌いなのかな‥」
「タヌキちゃんは可愛いからいいんだよ」
「タヌキじゃねェ!トナカイだ!」
「ナマエちゅわーん!!」
「うっせェ!ぐるぐる!」
あたしは男が嫌いな訳じゃない。この船の男共が嫌いなんだ。クソゴム人間もぐるぐる眉毛も長鼻野郎も。
なんでかって?それは‥
「ふわぁー‥エロコック飯ー」
「っ!ロロノア・ゾロ!」
「げっ!!」
船内からお目当てのロロノア・ゾロが大きな欠伸をしながら出てきた。
瞬間、その体に突撃!!
「のわっ!?」
「ロロノア・ゾロー!!!」
「ちょっ!離せ!」
「離すもんか!今日こそあたしと結婚しやがれー!!」
「誰がするか!!」
そう、あたしはロロノア・ゾロ‥いや、ゾロさまにゾッコンラブなのだ!
はあ、とナミちゃんと長鼻野郎の溜め息が背後で聞こえた。
ぐるぐる眉毛の叫び声とクソゴム人間の「俺も飯ー!!」の声もする。
その逞しすぎる腰に腕を回し、ぎゅうっとしがみついた。
「はあ〜ん!この筋肉堪んない!」
「(ゾッ)てめェ離せ!変態野郎がっ!」
「え?プリティハニー?やだっ、ゾロさまったら〜(ニヤニヤ)」
「言ってねェ!!」
更にその体に抱きついた。(幸せでとろけそうです!)
「幸せな耳だな」
「ホントね」
長鼻野郎とナミちゃんはそう呟いた後、溜め息をつきながら船内へ戻って行った。
それに続くようにタヌキちゃんとロビンちゃんも入って行く。
「サンジ飯ー」
「うるせェ!クソゴム!おい、毬藻!」
「エロコック!コイツどうにかしてくれ!」
「ゾロさま〜」
「ナマエちゃん!んなクソ毬藻より俺にバグをっ!」
「ちょ、何すんだ!やだやだ!ゾロさまー!」
ぐるぐる眉毛の野郎がゾロさまからあたしを引き離そうと後ろから抱きついてくる(邪魔すんなー!)。
あたしも離れまいと必死にしがみつく。
「ゾーローさーまーっ!」
「ナマエちゅわーん!」
「てめェら離れろー!」
「なんだお前ら!楽しそうだな!」
よし俺も、とクソゴム人間も(腕をわざわざ伸ばして)抱きついてくる(く、苦しい‥)。
「ゾーローさーまー」
「ナマエちゃーんー」
「てめェナマエ!鼻血鼻血っ!」
「あは〜ん!ゾロさまに名前呼ばれた〜」
「うおー!なんかわかんねェけど楽しいな!」
苦しいけど幸せっ!ゾロさまに近づきすぎて鼻血大量で死ねるかも。
あたしのハッピー脳内がそんなことを考えているとき、ドアが開く音がした気がする。
「なっ、」
「うおっ!」
「まぁ」
「へ?」
「ナマエちゃーん!僕は今幸せだよー」
「ゾロさまーむふふ」
「楽しいなー!しししっ」
「てめェら!いい加減にしろよ!」
「あんたたち、何やってんのよ」
背後から声がした。
へ?と間抜けな声を出しながら振り向くと、青筋を浮かべたナミちゃんが‥
* * *
「ナマエ、あんたいい加減にしなさいよ」
「すみません」
「ゾロももう少し優しくしてあげなさい」
「なんでだよ!俺はコイツが」
「女の子には優しくするもんでしょ」
「だからって」
「サンジくんもルフィも反省しなさい」
「はーい!ナミすわーんっ!」
「でも楽しかったぞ」
4人仲良く(認めたくないけど)頭に二段たん瘤をこしらえて、甲板に正座をさせられて、ナミちゃんの恐ろしく怖い説教を受けている(ナミちゃんの頭に角が見える)。
ガコン、とクソゴム人間がもう一発殴られていた。
しゅん、と落ち込んだ(ナミちゃんに怒られたのが相当ショック)あたしを見て、ナミちゃんは盛大な溜め息をついた。
「ナマエ、そんなにゾロが好き?」
「好き、大好き」
「な、」
「ゾロは黙ってなさい」
「っ‥」
「ナマエ、ゾロが本当に好きなら迷惑かけちゃ駄目でしょ?」
「……」
わかってるんだ。迷惑だってことは。
でもどうしようもないんだ。ゾロさまを見たら胸がドキドキして、苦しくなって、触れたくなって、近くに居たくなって、とにかく自分を制御できないんだ。
コレが恋だって気づいたとき、すごく嬉しかった。
同時に初めての恋に、どうしていいかわからずに本能のまま体が動いてしまっていた。
「ごめ、なさい‥」
「‥」
ゾロさまは黙ったままだった。
他のみんなも口をつぐんだまま何も話そうとしない。
なんだか泣きたくなって、急に申し訳ないという気持ちが込み上げてきて、あたしはすくっと立ち上がった。
「あたし!もう‥ここには来ないよ」
「えっ!ちょっと、ナマエっ」
「ご迷惑をおかけしました!」
深々と頭を下げて、船の縁に足をかけた瞬間、
「どこ行くんだよ、ナマエ」
「ちょ、はっ!?」
ぐっと腕が伸びて来て、あたしの体に巻き付いた。
勿論犯人はこの船の船長で、全身ゴム人間だ。
「ど、どういうつも」
「この船に乗れよ」
「え‥」
まさかだった。
前々から頭の悪い奴だとは思っていたが、(自分で言うのも何だが)こんな人間を船に乗せようなんて‥
「じょ、冗談だろ」
「嫌なのかー?俺お前のこと気に入ってるしな、一緒に海賊やろうぜ」
「そん、な」
思わず他のクルーたちに目をやると、みんなニコニコと笑ってくれていた(ゾロさま以外)。
「ルフィが良いって言うなら構わないわよ」
「で、でも‥」
「ゾロ、いいわよね?」
みんなの視線がゾロさまに向く。当たり前にあたしの視線も。
ゴクリ、生唾を飲み込んでゾロさまの言葉を待った。
「別に‥いいんじゃねェか」
「ゾロさま愛してるーっ!!!」
「バカっ!やめろ!離せ!」
やっぱりあたしはゾロさまが大好きです。
「これから朝昼晩ずっと一緒だなんて‥ぐふふ」
「てめェまた鼻血!付けんじゃねェぞ!」
「ゾロさま好き好き大好きーっ!」
「わーっ!やめろっ!」
ぎゅうぎゅう抱き締めた。
ずっとゾロさまと一緒だ。嬉しい、嬉しい、嬉しい!
「良かったわね、ナマエ」
「でもこれから大変じゃねェか?」
「いいんじゃない?楽しくなるわよ」
「サンジー!メーシー!」
「ナマエちゃんの歓迎パーティーだな!」
ぐるぐる眉毛たちが船内に入って行った。
あたしはゾロさまに抱きついたまま、クソゴム人間を引き留めた。
「ありがとう!クソゴム‥船長!」
「ししし、気にすんな」
「で、でも!ゾロさまはやらねェからな!」
「ゾロはお前んじゃねェぞ」
「いずれあたしのに何だよ!ね!ゾロさま」
「誰がなるか!いい加減離せ!」
「やーだー!ゾロさま大好きーっ!」
大好き、大好き、大好き。
これからずっと一緒だ。
「ゾロさまー!」
「わァったから!離せ!」
「んふふー」
あたしがゾロさまに殴られるまで、後10秒。
少女の初恋
(お相手は手強き剣士)
「ゾロさまあーん」
「自分で食う!」
「そんなこと言わずに(ぐいっ)」
「んむっ‥」
「どうですか?」
「美味い」
「んふふー」
「作ったのサンジだけどな」
「障らぬ神に祟りなしよ、ウソップ」