内緒のアイラブユー


 

「ナマエ!俺と結婚しろよい!」

「い、いやァァァァァァア!!」

「あ!おい!逃げんな!」

「いやいやいやァァァア!船長お願い!助けてくださいっ!!」

「また来たのか?懲りねェヤツだなァ」

「ハッハッハッ!どうだナマエ、一度デートくらいしてやればいいじゃないか」

「嫌ですよ!何てこと言うんですか副船長!!」

「……」

「ちょっとシャンクス!あんたも黙ってないでなんとか言ってよ!!」

「いや‥うん‥」

「おい!赤い髪の野郎!ナマエから離れろよい!」

「ちょっ!触らないでよ!」

「……」

「なんでだい?俺たち結婚すんだからこれくらい当たり前だろい?」

「しないわよ!勝手な妄想やめてくれない!?ホント迷惑!!」

「照れてんのかい?可愛いヤツだねい」

「違うから!ホントにやめて!」

「あ!おいコラナマエ!」

「おっと、これ以上は俺の船だ。余所者をいれる訳にゃあいかねェ」

「うっ‥」

「すまないなァ。だがこれ以上踏み込まれては、君だけの問題ではなくなってしまう‥意味はわかるだろう?」

「あァ‥海賊団同士の問題になるんだろい」

「そういうことだ。今日は帰ってくれ」

「‥わかったよい」

「……」

「‥帰ったぞ」

「すみません。いつも迷惑ばっかりかけて‥」

「俺ァ別にかまわねェさ。にしてもナマエも隅におけねェなァ!白ひげんとこの小僧に惚れられるなんざ」

「あたしは良い迷惑です!」

「わっはっは!若ェってのは良いモンだな!レイリー!」

「はっはっは!本当だなァ!」

「船長!副船長も!やめてください!」

「悪ィ悪ィ。さァ邪魔も居なくなったんだ!しっかり働けよ」

「はーい」

「……」

「……」

「シャンクス?バギー?さっきから何黙ってるのよ。いつもは鬱陶しいくらいうるさいくせに」

「‥なァバギー」

「‥んだよ」

「俺の気持ちわかるか?」

「…………………わかりたかねェけどな」

「はァ」

「はァ」

「?」

「「(アイツ気持ち悪ィ!!!)」」




マルコはあたしがまだロジャー船長の船に居る頃からの知り合いだ。

というかこれを知り合いと言うのだろうか。あたしとしては、“付き纏われていた”というのが正しいと思う。

そんなあたしにとって迷惑極まりないマルコとの出会いは、意外にも運命的なものを感じるドラマチックなものであった。

海賊団の見習い兼忍者見習いとして船に乗ったあたしは、忍術もまだ身についていない、本当に駆け出しだった。

そんなあたしは初めての海賊同士の抗争にただただ怯えていた。

あちこちから聞こえる轟音や雄叫び、そして、悲鳴。

耳を塞いでさえ聞こえてくるそれに震える体を押えるので精いっぱいだった。



「おい」



ビクッ、自分でも驚くほど体が揺れた。

恐る恐る振り返ると、見たこともない、ところどころ青い炎に身を包んだ、あたしと大して歳の離れていないであろう男の人だった。

その彼の胸には、堂々と敵船のマークが彫られている。


あたし、死ぬんだ。


そう思い、恐怖からギュッと目を閉じる、と、



「え‥?」

「女に手ェかけるほど、俺は惨忍じゃねェよい」




危ねェからもっと安全なとこに隠れてろい。

そう言ってあたしの頭を撫でた後、背を向け去っていった彼は、まるで王子様だった。

これが意外にもマルコの第一印象だった。

この後、どれだけ彼に迷惑をかけられ、どれだけ振り回されるかも知らずに‥。





 * * *





「ナマエー?そろそろ起きなさい」

「んー‥」


懐かしい夢を見た。

ロジャー船長の船に居た時代、シャンクスやバギーと一所懸命に生きていたときの夢。


「‥今日はアイツが来るって予兆かな、これ」


脳裏に浮かんだ忌々しい金髪野郎に一つ溜め息を付いたとき、どういう因果か、その嫌な声が聞こえてきた。


「麦わらーっ!!!」


最近来ないと思ったのになァ。

見つからないようにあたしはその様子を窺った。


「んだよ、おっさんまた来たのか?」

「おう、麦わら。今日こそナマエを渡してもらうよい」

「あのなァ、ナマエは物じゃねェんだぞ?渡すとか渡さねェとか‥第一ナマエは俺の仲間だ!いくらおっさんがエースの友達でもそれだけはできねェ!」

「チッ‥話の通じねェヤツだよい」


ロジャー船長の処刑の後、あたしは忍者の里へ戻って訓練に明け暮れた。

なんせ忍者の里、人に知られるような場所じゃないためか、マルコは一切あたしの前に現れなくなった(正しくは現れられなくなった)。

それから20年後、すっかりあたしもおばさんと呼ばれてもおかしくない歳になった。その歳を隠すかのように、変身術で常に若い姿のままでいた(女はいつまでも綺麗でいたいものよ)。

そして、あたしは忍者の仕事中、今のあたしの船長、ルフィに出会った。

任務中に一度出会ったシャンクスと宴(仕事より昔の仲間な方が大事でしょう)をしたとき、シャンクスがロジャー船長と同じことを言う少年に出会ったと言っていた、その少年にあたしは出会ったのだ。

マルコとの初対面とはまた別の、運命的なものをあたしは感じた。

そしてあたしはルフィの船のクルーになった。

ルフィの船に乗って数か月、元ロジャー海賊団の見習いだと知れたあたしは、ルフィに及ばずともいくらかの賞金が付いた。

そしてそれを見てか、アイツが現れたんだ。



「ナマエ、久しぶりだねい。会いたかったよい」



そう言ってあたしを抱きしめたアイツを、あたしは20年ぶりに殴り飛ばした。


思い出すとまた溜め息が零れた。

本当に懲りないヤツだ。

それにしても、あの頃といい、今といい、あたしは船長に助けられてばかりだと思う。


「わかったよい。じゃあお前をぶちのめせばナマエは渡してもらえるんだねい?」

「望むところだ!やってみろ!!」

「ちょっとルフィ!相手わかって言ってんでしょうね!?」

「んなもん関係ねェよ!」

「バカっ!白ひげの一番隊隊長よ!?勝てる訳ないじゃない!」

「うるせェ!ナミは黙ってろ!」

「あんたってヤツは‥!」

「いい覚悟だねい。だがこっちも本気だい。エースの弟だからって手加減しないよい」


でも、やっぱり守られてばっかりじゃダメだよね。


「マルコ!」

「‥!ナマエ!!」

「いい加減にしてよ!何をされてもあたしはマルコの女にはならないわ!」

「女じゃねェよい。嫁」

「どっちでもいいわ!!とにかくお引き取りください」

「やだねい」


やだっていくつだコンニャロー!

ていうかさり気なく手を握るなァァァァァァァア!!


「ナマエ、俺は真面目にお前が嫁に欲しいんだい」

「‥っ」

「そろそろ、お前もいい歳」

「帰れバカヤロー!!!」


あたしは思いっきりマルコを投げ捨てた。

勿論、こんなものがマルコに効かないことくらい百も承知だ。

ていうか女性に年齢のこと言うってどうなの!?


「ゼェ‥ハァ‥」

「ナマエ‥?」

「さ、みんな、朝ご飯にしましょ」

「……」

「そうだな!飯っ飯っ!!」

「……」

「‥ナミ?」

「ナマエ、あんたホントはマルコのこと」

「何言ってんのよ。そんな訳ないでしょ」

「でも‥」

「いいから、ご飯行きましょ」


あたしはナミに笑顔を向けて、船内へと歩き始めた。



「ホントはマルコのこと」



20年ぶりにマルコに会えたときの、あの沸き上がるような気持ちも、

数日会えなかっただけで、物足りなく感じるこの切ない気持ちも、

さっきの真剣なマルコの表情に熱くなる頬も、

あの時、

マルコに初めて会ったときから、同じなんだ。

あの時からあたしは、


「ナマエ!俺のガキを産ん」

「誰が産むかァァァァア!!」


マルコが好きなんだ。







内緒のアイラブユー
(あの時から同じ気持ちだった)






「ナマエ!今日は婚約指輪を」
「百年早いわァァァァア!!」

「今日も元気だなァ、あの野郎」
「ナマエも素直になればいいのに」
「ん?何のことだ?」
「なんでもないわよ」






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