永遠の愛を君に誓う


 
「ふざけんな隈野郎がァア!!!」


ドカァァァァァァーン!!!


物凄い騒音と共に船内に響いた怒声。普段は女らしくて可愛らしい声のヤツが稀に出す、ドスの効いた声ってのは相当恐ろしいもんだ。

これは知らないフリに限る。俺は何事もなかったように食事を続けようとした。

‥したんだ。したんだよ。

なのにさァ、なんでこうなる訳?


「ペンギンーっ!聞いてよ聞いてよ!ローったら、ローったら‥」

「わかった!わかったから俺のつなぎで鼻を噛むな!ほれほれ、ティッシュやっから」

「あ゛り゛がどう゛」


ズズ、と遠慮がちに鼻をかむこの女は、さっきの怒鳴り声の主で船長の女のナマエ。女らしくて、美人というよりかは可愛くて、クルーみんなに優しい、船長の女じゃなかったら手ェ出しちゃっててもおかしくないような良い女だ。うん、良い女だ。

ただし、怒らせない限り、だけどな。


「んで、今度は何したんだ?船長のヤツ」

「あのね」

「ん」

「……」

「……」

「‥っ」


ナマエは唇を噛み締めて、手の中のティッシュをギュッと握り潰した。そして、


ガシャーーーーーン!


握った拳を机に叩きつけると、机が綺麗に真っ二つになった。

おいおいマジかよ。どんな怪力だよホント。普段は剣1本でさえ重たそうにしてる女がコレって、船長どんだけのことやらかした訳。つーか女ってマジ怖ェ。

俺は若干顔をひきつらせながら、ナマエの顔を見た。


「え‥」


ナマエは泣いていた。長い睫毛を濡らして、白い頬を涙がツーと流れていく。

不謹慎かもしんねェけど、すんげェ綺麗だった。あーあ、船長羨ましいな。こんな女に愛されて。つーか船長、こんな良い女泣かすなんて!これだからモテる男は!


「泣くなよ、ナマエ‥話聞いてやっからさ」

「うん‥ありがとう、ペンギン」


ナマエは綺麗な指で頬の涙を拭った。

ったく、船長もナマエも手が焼けるぜ。


「とりあえず何か飲んで落ち着けよ」


俺達は真っ二つに割れた机から離れて、別の机に移動した。それから烏龍茶を汲んでナマエの前に差し出した。

ナマエはそれを一気に飲み干して、数秒後、ゆっくり口を開いた。


「ローったらね」

「ナマエ!」


どういうタイミングで現れんだよ、船長!ある意味ナイスタイミングだけどよォ!もう少し空気読むべきだと思わねェ?今から話聞こうって時に‥。

ほらほら、ナマエの顔、超ひきつってんじゃん。


「ナマエ‥ペンギンと何話してんだ」

「‥ローには関係ないでしょ」

「お前は俺の女だ。気安く他の男と喋ってんじゃねェ」

「何が俺の女よ。今日が何の日かもわからなかったくせに」

「悪かったって言ってるだろ」

「それが悪かったって態度?ホントに悪かったって思ってるなら態度で示してよ!」

「……」


うわあ‥すんげェ気まずい。俺全く悪くねェのに。つーか心なしか船長に睨まれてるし!やべェよやべェよっ!後がマジ怖いから!だから巻き込まれたくなかったんだよチクショー!

俺が後々のことを考えてヒヤリとしているのを知ってか知らずか、ナマエは立ち上がり俺の手を握った(え?握った?)。


「ペンギン、場所変えて話しましょ。ここだと邪魔が入るから」

「え?」

「おいナマエ。その邪魔ってのは俺のことか?」

「あら、別にそんなこと言ってないわよ。だけど自分でそう思うならそうなんじゃない?」

「ちょ、二人共」

「なんだその反抗的な態度は。可愛くねェ女だな」

「可愛くなくて結構!そんなに自分に従順な可愛い彼女がいいなら、今すぐ別れましょ」

「誰もそこまで言ってねェだろ!」

「あたしにはそう言ってるように聞こえたわ!」


バチバチと睨み合う二人。それに挟まれるようになってる俺ってすっげー可哀想だと思わねェ?あァ!なんでこんなことに巻き込まれちまったんだよ!こんなことならキャスケットとベポと買い出しに行きゃ良かったぜ!

俺は自分の不運さに頭を抱え込んだ。

その時、船長とナマエの口論で先程まで気付かなかったが、船の外が自棄に静かなことに気付いた。

今はまだ真っ昼間。いくら島に船を停泊させてるっつっても、船に大半のクルーは残ってるはずだ。こんなに静かな訳ねェ。

不審に思った俺はコッソリ二人から離れて、ドアの小窓から甲板を覗き見た。


「……」


なんだ。船長の野郎、ちゃんと考えてんじゃん。

俺は小さく、船長達に分からないように笑いを溢した。


「ナマエ、いい加減にしろ」

「何をいい加減にするの!ローこそ、いい加減にっ‥」


しかし、“親の心子知らず”とはよく言ったもんだが、まさに“彼氏の心彼女知らず”だ。

ま、ポロポロ涙溢しながら船長を睨むナマエも、結局は船長が好きで好きでたまんないんだろうな。

だからこそ今日という“大切な日”を忘れた船長が憎いんだろうな。

けどこれ以上喧嘩しちまうと船長もナマエも、言っちゃいけねェことまで言っちまいそうだ。しゃーね。止めてやっか。


「はーい!二人共やめたやめた」

「ペンギンに関係ねェだろ」

「確かに俺は関係ねェけどさ。船長、素直になったらどうっすか?」

「……」

「何?何かあるの?」

「……」


船長って亭主関白だよなー。自分から甘えるとかぜってェねェわ。つーかむしろ俺としちゃ見たくねェ。

船長が黙りこくってる間に、ナマエの機嫌は更に悪くなる。


「もういいっ!」


いい加減痺れを切らしたナマエは、乱暴に食堂のドアを開け放った。


「え‥」


瞬間、ふわりと暖かい、春の香りがした。

すぐ傍で船長が息を吐いたのがわかった。

サプライズ成功、って訳か。船長ったらキザだねェ、ホント。


「な、に‥これ」

「花言葉は“永遠の愛”‥だったか?」


甲板いっぱいの、チューリップ。赤、ピンク、紫、一面に広がるチューリップ畑。

固まったまま動かないナマエの隣に行った船長は、そっとその肩を引き寄せた。


「ホントは薔薇なんかのが嬉しいんじゃねェかと思ったんだが、生憎の春島でな。花屋のヤツが言うにはこの島じゃチューリップをプロポーズに使うらしい」


どうせならいっぱいの方がいいだろう?

そう言う船長は世界一かっこいい!さすが俺等が船長だぜ!くあーっ!かっこよすぎて腹立つなァ!


「悪かったな‥忘れちまってて」

「ううん‥嬉しい」


さっきまでとはまた違う、嬉し涙を流しながらナマエは船長を見上げていた。あァ、羨ましいなー。

船長はナマエの涙を指で拭ってやった後、赤いチューリップを一輪差し出して、


「何があってもお前を離さねェ。だから一生俺の傍で居ろ。お前が俺の傍に一生居ると誓うなら、俺もお前に夢の果てを見せると誓う」

「‥居る、一生ローの傍に、居る」


ふっと笑った船長はゆっくり身を屈め、ナマエに顔を近づけて‥

こっから先を見るのは野暮ってもんだろ。俺達はチューリップ畑と化した甲板から離れ、食堂へと避難した。

数時間後、幸せそうにチューリップを両手に抱えたナマエと船長を肴に、今年一番の宴が開かれた。








永遠の愛を君に誓う
(今日で君を愛して1年目)








「なーキャスケット」
「あ?んだよ」
「彼女欲しー」
「そうだなー。あんなの毎日見てたらたまったもんじゃねェもんな」
「なんかさ、俺って優しいと思わね?ナマエの話聞いてやったり、喧嘩した二人止めてやったり‥なのになんで彼女出来ねェ訳?何が駄目な訳?」
「ま、落ち着けって。そうだベポ!ペンギンに女紹介してやれよ!」
「いいよ!こないだ知り合った色黒のフワフワちゃんとかどうかな?」
「お前それクマだろ」
「だァァァっ!!もうなんでもいいから彼女が欲しいーっ!!」
「待てペンギン!早まるなァァァァア!」









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