戦場に注ぐ希望という光


 
「エースの処刑時刻が早まる!?確かにそう言ったのか!?」

「なんかの準備ができてからって言ってたけど、他は暗号でよくわかんなかった。エースを助けてェのは同じだから、それだけ教えといてやる!!」

「そうか‥それは大事な事を聞いた。すまねェな‥!」

「いいんだ。気にすんな!」


胸を張ってそう言った麦わらは、パッと正面を向いて雄叫びをあげながら走り出した。

そのどこか逞しい後ろ姿を見送って、あたしは親父を見上げた。


「海賊相手に処刑時刻を守る必要はねェって訳か。何かの準備の後ってのがカギだな‥」

「親父‥」

「焦ったところでエースは助けられねェぞ」

「……」


わかってる。わかってるん、だけど。

気持ちだけが空回りしていく。落ち着かなきゃいけねェのに、エースのことしか、エースを助けることだけしか考えらんなくて。

それが相手の思うつぼになる。あたしが足を引っ張っちゃいけない。

それでもやっぱり、エースのことしか考えられない。それほどまでに、あたしはエースなしじゃダメみたいで、エースに惚れちまってるみたいで‥。

愛しくて、愛しくて、壊れちまいそうだった。


「大丈夫だ。エースは必ず助ける」


ポン、と少し乱暴に親父はあたしの頭に手を乗せた。

あたしの考えなんてお見通しってことかな。やっぱり親父は、あたしの親父だ。


「当たり前だよ。あたしが、助けんだから」

「グラララ‥だったらこんなとこに居ねェでさっさと行きやがれ」


バカ娘が、と頭を小突かれた。

ホント親父はあたしの性格を知り尽くしてる。親父に似たのか、母さんに似たのか、反抗心の強いあたしの扱い方を知っている。


「わかってるよ」


少し乱暴に言葉を返して、あたしは船を飛び降りた。

入れ替わるようにマルコが親父の傍に行くのが見えた。

マルコが自由に空を移動できるのは、彼が不死鳥だからだ。あたしがいくらシャーナに乗って行っても、マルコのように自由に移動は出来ない。

やっぱりマルコの能力は稀少というだけあるな、と改めて実感した。


ズズゥーン!!!


あたしが感心してる間に何があったのか、急に目の前で大きな爆発が起こった。それは何かと何かがぶつかり合う、反発し合うような爆発だった。

さっきよりもずっと、危険な戦争になってる。


「(麦わら‥大丈夫かな)」


他人の心配をしている場合ではないが、なんせエースの弟だ。無茶するに決まってるし、危なっかしくて仕方ねェ。

それにエースを助けられたとしても、弟が無事じゃねェなんざエースも辛いだけだ。

エースの、悲しい顔は見たくない。


「……っ!」


最優先はエースの救出。

だから二の次になっちまうが、多少なりとも援護してやろう。あたしなんかの力で援護になるとは思えないけど、ないよりマシだろう。

そう思い、あたしは麦わらに追い付くため走り出した。

迫り来る海兵を斬り捨て、その体力を奪って、また斬り捨てて、そんなことを繰り返しては前にただ進んだ。いつしかサーベルには血がこびりついていて、服や肌にも斑点の柄のように血が付着している。

こんなに人の血を見るのは初めてではない。だからかもしれない。未だに冷静さを失っていないのは。あるいは、エースしか頭にないからか。

どちらにせよ、あたしは進むしかないんだ。


「来るな!!ルフィーーーーっ!!!」


エースの声がした。

力強い声だった。


「わかってるハズだぞ!!俺もお前も海賊なんだ!!」


エースは、麦わらに傷ついて欲しくないんだ。


「思うままの海へ進んだ!!俺には俺の冒険がある!!!」


エースは、麦わらを巻き込みたくないんだ。


「俺には俺の仲間がいる!!お前に立ち入られる筋合いはねェ!!!」


「エー、ス‥」


痛いくらいわかる、エースの気持ちが。

自分のために弟が傷つくのなんて、見たくない。


「お前みてェな弱虫が!!俺を助けに来るなんて!それを俺が許すとでも思ってんのか!?こんな屈辱はねェ!!」


だけど、あたしには麦わらの気持ちも痛いほどわかるんだ。


「帰れよルフィ!!!何故来たんだ!!!」


きっとあたしなら、それでもエースを助けたい。


「俺は弟だ!!!」

「!!」

「海賊のルールなんて俺は知らねェ!!」


思わず笑みが溢れた。嬉しかった。

エース、あんたはたくさんの人に愛されてる。

甘えてもいいんだよ。弱いとこ見せたっていいんだよ。

頼むからさ、大人しく助けられてよ。


「何をしてる。たかだかルーキー一人に戦況を左右されるな!」


センゴクの声を聞きながら、また一人海兵を斬り捨てた。

また少し、エースに近付いた。


「その男もまた未来の“有害因子”!幼い頃エースと共に育った義兄弟であり、その血筋は」


「“ギア3”!!」


「“革命家”ドラゴンの実の息子だ!!!」


センゴクの言葉と麦わらの腕がデカく膨らんだのはほぼ同時だった。

だが恐らく、このざわめきは前者、センゴクの言葉によるものだ。


「あのドラゴンの!?」

「ドラゴンって‥!!」


“あの”ドラゴン。

皆が口々に言うその人物を、あたしも知っている。

会ったことなんてねェけど、度々新聞を賑わせては、政府をヒヤリとさせている世界的大犯罪者だ。

それが、麦わらの親父。


「“巨人の回転弾(ギガント・ライフル)”!!!」


麦わらはあたしと同じ、世界的大犯罪者の子供。


「エーーーースーーーーっ!!!」


釘付けになった、麦わらの姿に。

ただ、ただ、その直向きな姿に。


「好きなだけ何とでも言えェ!!俺は死んでも助けるぞォオ!!!」


あたしはコイツを、死なせたくない。








戦場に注ぐ希望という光
(彼と彼とあたしの共通点)












 


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